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2004年11月30日

『子供の眼』リチャード・ノース・パタースン

アメリカの弁護士作家リチャード・ノース・パタースン(Richard North Patterson 1947-)による法廷ミステリ『子供の眼(原題:Eyes of a Child)』(1994)。主人公の凄腕弁護士クリストファ・パジェットが愛する女性の夫(つまり女性とは「不倫」関係)を殺害したという嫌疑をかけられ、第一級殺人の被告として法廷で裁かれるというストーリーです。裁判が進むにつれて事件の背景にある母娘の悲劇が明らかにされてゆき、家族の絆の強さが再確認される・・・。読み応え充分の重厚なエンタテインメントでした。

以下はその『子供の眼』からの引用です。

政治家の財布に金を注ぎ込む銃砲ロビイスト。その金を受け取り、見せかけだけの空疎な議論をして、この国を世界の射的場にするための有害無益な法律を制定する議員たち。そして、その議員たちの責任を問おうとしなかった私たち有権者──(『子供の眼』リチャード・ノース・パタースン、後藤由季子訳、新潮社、2000より引用)。
当世のアメリカの政治家たちは、『子どもたちを愛せ。ただし、生まれてくるまで』を信条としているようです(〃)。
わが国には、貧民、少数民族などの底辺層が、昔も今も、おそらくこの先も厳然として存在し、そういう人々はめったに顧みられることがなく、ただ単に、政治家が真実を覆い隠すときの攻撃目標にされるだけなのです(〃)。

主人公のクリストファ・パジェットの合州国上院議員出馬表明スピーチからおもな主張を書き出してみました。これらから判断するとパジェット氏はかなりリベラル自由主義的)な政治的姿勢をもっているようです。

最初の「政治家の財布に~」は銃砲規制の支持表明です。マイケル・ムーア監督のドキュメンタリ映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも描かれているように、国中に溢れた銃砲による犯罪被害者が絶えないアメリカ合州国は銃砲メーカーの政治力がきわめて強い国でもあります。政治家の多くはメーカーや愛好者団体の影響力を恐れて銃砲規制の意思を表明するようなことはしません。

つぎの「当世の~」は、妊娠中絶には強く反対するけれど、生まれてきた(貧困層の)子どもたちを放置する保守的な人々への皮肉です。キリスト教の影響力が強いアメリカでは妊娠中絶を極度に罪悪視する人たちがいます。妊娠中絶を行なう医師が暗殺されたり病院が爆破されたりする事件が後を絶たないほどなのです。キリスト教原理主義が台頭してきた現在はピルの服用による避妊も批判の対象になりつつあるようです(参考ページ→「アメリカと生命倫理:避妊薬の販売を拒否する薬剤師達」)。

最後の「わが国には~」では貧しい人々マイノリティへの同情が示されています。アメリカ合州国は世界一裕福な国であると同時に、その人口の一割以上が経済的貧困層に属します。(参考ページ→「アメリカ国内で3,100万人が飢餓に苦しんでいる」)そして貧しい人々の中に占める人種的マイノリティ(黒人・ヒスパニックなど)の割合は非常に高いものとなっています。

銃砲規制に積極的に取り組み、妊娠中絶に理解ある立場を示し、貧しい人々やマイノリティへ共感を抱き、さらには強い影響力と人気を合わせもつ政治家がいたとしたら・・・。アメリカ合州国ではかなり高い確率で暗殺されてしまうのではないかと思います。

もっとも昨今のアメリカでは「リベラル」株は暴落しているようです。「奴はリベラルだ」というのは最低の悪口になっているのだとか。これも奇妙な話ですね。リベラリズム自由主義)を忌み嫌う立場というのは全体主義専制主義のような「悪しきもの」になるはずですから。


投稿者 kihachin : 2004年11月30日 12:16

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