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2005年06月13日

『蛇の形』

蛇の形』ミネット・ウォルターズ(Minette Walters)著、成川裕子訳、創元推理文庫(2004)

Minette Walters: Official Websiteストーリー》1978年の初冬、ロンドン南西部のグレアム・ロードでひとりの女性が死亡した。名前はアニー・バッツ。その奇矯な振る舞いから、近所の人間は彼女を“マッド”・アニーと呼んでいた。アニーはグレアム・ロードでは唯一の黒人であり、人種差別的な一部近隣住人から度重なるいやがらせを受けていた。

この物語の主人公であるミセス・M・ラニラはアニーが死亡した瞬間にたまたま居合わせる。警察はアニーの死を交通事故によるものとして簡単に処理するが、Mはどうしても納得することができなかった。彼女は20年以上の時をかけて、アニーの死の真実を追求し続ける・・・。

感想》重量級のミステリです。一筋縄ではいかない登場人物たちが複雑にからみあいます。いい人が同時に悪い人、誠実であると同時に不誠実、愛情と憎悪に境界線は引きにくいということが、エピソードの積み重ねによって丹念に描かれてゆきます。

邦訳で600ページ近くにもなる長編の中で追求される謎は2つあります。

  1. アニーを殺したのは誰か?

  2. なぜMはこれほどまでに執念を燃やして犯人を追及するのか?

2番目の謎は最後の1ページで明かされます。じつに鮮やかな手法です。思わずうならされてしまいました。もしこの最後の謎解きが存在なかったら、『蛇の形』はこれほどまでに感動的な小説ではなかったでしょう。

『蛇の形(原題:The Shape of Snakes)』というタイトルは本書の次の部分からとられているようです。

蛇にはそれぞれ形がある、毒のあるやつを見分けられなかったら、命はない

ある男性登場人物の発言(の伝聞)です。この場合の「蛇」は女性一般を指しています。そしてストーリーの展開とともに(複数の)女性登場人物が「毒のあるやつ」だという事実が明らかにされてゆきます。

探偵役のMを支える脇役陣もバラエティに富んでいます。夫婦ならではの愛憎によって結び付けられている夫、2人のハイティーンの息子たち、娘とは似たもの同士の母と愛情深い父親、ホラばかり吹いている夫の親友・・・。

もっとも魅力的な脇役は「長身の、痩せた女性」「わし鼻で、白髪まじりの髪を肩にたらし、マシンガンなみの速さでしゃべるウェンディ・スタンホープです。牧師夫人の彼女は、Mが犯罪者たちと最後の対決をする際の介添え人の役を果たします。

アニー殺人事件が発生した1978年という年を作者は入念に選択しているのでしょう。翌1979年はサッチャー政権(1979~1990)が誕生しており、アニーはサッチャー政権成立前夜のイギリス社会の「気分」の中で命を落としたようにも思えるのです。

ちなみにマーガレット・ヒルダ・サッチャーは不思議なことに日本では評判がいいようですが、急激なインフレをもたらした経済政策、人種差別的政策、軍拡路線のため、現在イギリスでは至って不人気な人物だと言われています。


投稿者 kihachin : 2005年06月13日 12:35

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コメント

喜八さん、初めまして。
コメント、トラバ、ありがとうございました。

むむむむむむむ。なんと。原書ですかっ。天晴れ!
そうなんですよね。
確かに途中途中もおもしろいんだけど、「なんでミセス・ラニラはこんなにしつこいんじゃ?」…これが喉に小骨がひっかかるような歯がゆさで最後の最後まで引っ張られ……「一気!」ですもの。そりゃ、泣きますもの。

まだチラッとしか拝見していませんが、喜八さんの「筋トレ」カテゴリー、大興味です。
実は。この年になって「筋肉」に目覚め、ジム通い5年目。
でも。ついつい楽しいエアロビモノに走り、ついついマシーンやダンベルとは疎遠に…。
ジブンを叱咤激励するためにも、これからたびたび寄せてもらいますね。

投稿者 かむかむわんわん : 2005年06月14日 00:15

かむかむわんわんさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

> むむむむむむむ。なんと。原書ですかっ。天晴れ!

いえ、原書はごく最初のほうで挫折しました・・・。(^_^;)
英語版の表紙のほうが格好いいので、ブログ記事のアクセントにしています。
著者側には画像使用の許可をとっていませんので、抗議が来たらすぐさま引っ込めようというノラクラ作戦です(汗)。

> 実は。この年になって「筋肉」に目覚め、ジム通い5年目。

あっ! そうだったのですか!
ブログを拝見したときは気づきませんでした・・・。

このブログ(喜八ログ)の他に「ウエイトトレーニングを楽しむ」という筋トレサイトもやっていますので、よろしかったら覗いてみてください。m(__)m

「ウエイトトレーニングを楽しむ」
http://kihachin.net/

投稿者 喜八 : 2005年06月14日 12:28

でもナルニアは原書でイッタのですね。
子供の頃…何度読み返したかわからないほどハマっていたナルニアが「映画!」になると聞いて、「この際、大人になったんだからねただ読み返すだけじゃ…」と、原書にトライしていたのですが~~~玉砕です(笑)

筋トレサイト、(まだ少しだけですけれども)拝見しました。
たっぷりの情報なので、少しずつ楽しみに読ませていただきます!
実はここ2ヶ月もジムをサボってしまって…
頑張りすぎるとこういう反動があるのですよね。
頑張らないトレーニング、参考にしたいと思います~!

投稿者 かむかむわんわん : 2005年06月15日 09:39

かむかむわんわんさん、こんばんは。
「ナルニア国ものがたり」はイラストがカラーのものが新しく刊行されていますね。岩波少年文庫版をもっているのですが、カラーイラストのものも欲しくなってきてしまいました(笑)。

「ウエイトトレーニングを楽しむ」はテキスト(文章)ばかりで、画像がほとんどないので、さぞかし利用しにくいと思います(汗)。誤字などに気づいたら、教えていただけると助かります・・・。
トレーニングの内容なども教えていただけると嬉しいです~。

投稿者 喜八 : 2005年06月15日 20:42