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2005年10月21日
『ブスのくせに!』姫野カオルコ
最初にお断りしておきます。
『ブスのくせに!』というのは私(喜八)の言葉ではありません。
これは小説家姫野カオルコさんのエッセイ集のタイトルであります。
姫野カオルコさんは1958年滋賀県生まれ。青山学院大学文学部(昼間部)在学中に団鬼六賞を受賞して著述業を開始。他の誰にも書けないような境地の小説・エッセイを書き続けられています。
「ブス
」。いたって小心な私はといえばインターネットでも普段の生活でもこの単語を絶対に使わないのです。さらには心の中にも思い浮かべないように努めています。かくのごとき不届きな言葉を口にすれば強力な言霊の働きにより我が「女運」は衰える一方。そう確信しているためです。
姫野カオルコさんはこの刺激的なタイトルに関してエッセイ集の冒頭で次のように述べています。
だれかに向かってブスのくせにと怒鳴っているわけではない。「ブスのくせに!」という怒りの心理や、理不尽だと感じる心理について考えてみたのである。
ただし、こう書いた直後にハリウッド女優ジュリア・ロバーツと彼女が映画『プリティ・ウーマン』の中で演じた役柄「ビビアン」に対して「ブスのくせに!
」とフルアタック(総攻撃)を敢行されています。『プリティ・ウーマン』に対する嫌悪は相当のものであるらしく他のエッセイ集『愛は勝つ、もんか』では「クソ、えんがちょ、ババ映画である
」とまで書かれています(!)。
姫野カオルコという人は「好き・嫌い」の峻別が非常に激しい。そしてその「好き・嫌い」の基準はまったく揺るぐことのない確固としたものであるらしいのです。ここでは「嫌い」の方の一例を挙げてみましょう。姫野さんは「私、お料理大好き
」と恋人でもない男性の前で公言するような女性を激しく忌避します。以下は小説『ひと呼んでミツコ』からの引用です。
女が男に料理を作る──この行為は、この行為は、そ、その、ものすごく、い、い、い、いやらしいことだ。
女が黒く透けたブラジャーをつけTバックのパンティをはき赤いストッキング(網)を黒いガーター・ベルトで吊って口紅を濡れたように塗ってネェ~ンと男の首に腕をからませる行為なんてメじゃないほど、媚びに満ち満ちて、あんまり満ちるからカサブタになって、もはや、媚び、ではなく(以下略)
このような媚態を恋人の前で示すのならそれは「フツーの恋人同士の光景
」であり、一向に構わない。が、惚れているわけでもない職場の男性同僚に手料理をつくってやるなどはとんでもなく恥知らずな行為である。というのが、姫野理論の中心命題であるようなのです。正直にいうと私にはよ~く分かる感覚です。でも「なぜ悪いの? 理解できない
」という方もまた多いだろうと思います。
姫野カオルコさんの著作を私が読み始めたのはごく最近のことでした。「なぜ女性は強い痩せ願望をもつのか?」「痩せる=女性美なのか?」を考えるための資料を探している際、姫野さんのエッセイ集『すべての女は痩せすぎである』に巡り合ったのです。これをきっかけとして短期間のうちに20冊以上の姫野本を読むことになりました。
姫野カオルコは「女性美」を考えるうえで最高に役に立つ! これが私なりの暫定的結論です。というより話はもっと単純で、単に女性美の基準が似ているだけなのかもしれませんが・・・。姫野さんが「美女」と認定する女性は私からみてもやはり「美女」であることが多いのです。たとえば『ブスのくせに!』には女子プロ・テニス・プレイヤーマルチナ・ナブラチロワへの激烈な恋情(?)が縷々と書かれていますが、「ナブラチロワ=美女」という意見には私も激しく同意します。
じつはナブラチロワさんには会ったことがあります。ごく短い間(約30秒)ではありますが、お話させていただいてもいます。もう20年以上前のこと、場所は東京新宿アルタ前(待ち合わせの名所)でガールフレンドを待っていたら、当時無敵を誇ったナブラチロワさんが人混みの中にぽつんと立っていたのです。周囲にいる数十人あるいは百人を超えるかもしれない人たちはナブラチロワさんに気づかないようでした。
マルチナ・ナブラチロワはブルージーンズ(その頃は珍しかったベルボトム型)、アメリカ合州国の星条旗をデザインした半袖Tシャツ、頭にはカウボーイが被るようなつばの広いテンガロン・ハットという身なりで、正直なところ「垢抜けている」という印象ではありませんでした。
私は思い切ってナブラチロワさんに話しかけることにしました。有名人を街角で見かけたからといって馴れ馴れしく話しかけることはほとんどしたことがありません(慎み深いものですから)。改めてよくよく考えてみると、そのようなことをしたのはこの1回だけのようです。
間近で見る彼女の印象はテレビとはまったく異なっていました。テニスの試合中継におけるマルチナ・ナブラチロワは「最強の筋肉ウーマン」です。が、実物は細っそりした体型でむしろ華奢にさえ見えます(※ただし骨太で筋肉質の「細っそり」。説明はちょっと難しいかも…)。そして物静かで知的な容貌。「綺麗な人だな」と思いました。そして、故郷を遠く離れた東洋の雑踏でいきなり出鱈目な英語で話しかけた男(私)に対しても誠実に接してくれました。
この経験は今まで何度も人に話したことがあります。細っそりとして華奢(※ただし骨太で筋肉質)、物静かで知的な印象、そして綺麗な人、これが真のナブラチロワなのだと私がいくら力説しても信じてくれる人はごく少数です。大方の男性は「悪い冗談」として受け取る傾向があるようです。実際のところナブラチロワさんを美人だと認定する男性にはかつて一度も会ったことがありません。とはいえ、女性の中には話をそのまま受け取ってくれる人もいました。そういう女性はある意味で同志なのだと勝手に思っています。
ところで先にも挙げた『ひと呼んでミツコ』では面白いことに気づきました。これは「私立薔薇十字女子大英文科
」に在籍する三子(ミツコ、身長172cm 体重66kg の自称「カルト美人
」)を主人公とする連作小説です。作者によると「ミツコは、まじめですが、あまり頭のいい学生ではありません。要領も悪い
」そうです。ところが倫理観が非常に強く、ある特殊能力を持っているため、行く先々で大騒動を引き起こしてしまいます。その中に主人公が「県立牛場高校
」に教育実習にいくという話があります。
この「県立牛場高校
」は「校風温順、鉄筋4階、西南角、トイレ水洗、最寄り駅より徒歩9分
」で、ミツコの指導教官は英語担当の「川口先生
」。さらに話の中で唐突に「○○県△△市
」という地名がミツコの口からでます(小説では実際の県名・市名が明記されています)。
じつは私の出身高校が上の条件にぴったり当て嵌まるのです。△△市(小説中では実名)にはいくつかの県立高校がありますが、「最寄り駅より徒歩9分
」の条件と一致するのは2校だけ。となると確率は1/2です。さらには私の高校2~3年時の担任は英語担当の川口先生でした(ただし、小説の川口先生とは年齢・容貌が異なります)。もし小説『ひと呼んでミツコ』に作者姫野カオルコさんの実体験が反映されているのなら・・・と考えましたが、まあどうでもいいことでしたね(笑)。
姫野カオルコさんはバーベルやダンベルを使用して筋力トレーニングをされ、さらには水泳・エアロビクスダンス・ボクササイズなどの有酸素運動に励み、日に2度のストレッチを欠かさない方なのだとか。となると、トレーニー仲間でもあるのです! 女性美の同志でありトレーニングの同志である貴重なお方。今後も粛々とご本を愛読させていただこうと思っています。
「参考文献」
- 『ブスのくせに!』姫野カオルコ、新潮文庫
- 『愛は勝つ、もんか』姫野カオルコ、角川文庫
- 『ひと呼んでミツコ』姫野カオルコ、集英社文庫
- 『すべての女は痩せすぎである』姫野カオルコ、集英社文庫
「関連サイト」
投稿者 kihachin : 2005年10月21日 20:48
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姫野カオルコ 「ツ、イ、ラ、ク」
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幼い小学生の生活、中学生の頃、そしてそこで出会った恋。
中学生から舞台... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年10月22日 23:02
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すごい題名でしょう、この本?
「美容整形の女王」中村うさぎさんと、「顔に痣のあるジャーナリスト」石井政之さんの二人は、異なる理由ではあっても、「顔」という... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年11月11日 15:07
» ひと呼んでミツコ from のほほんの本
姫野カオルコ『ひと呼んでミツコ』(講談社 1993)
評価:★★★★★
愉快痛快な小説でした。
なんかおちゃらけてるんですけど、テーマはしっか... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年04月16日 23:22
コメント
タイトルの内容については難しい問題かと思いますのでコメントがしにくいのですが、スポクラでトレーニングを頑張っている女性を見ると憧れますよね(*^_^*)
作者の方もフィットネスをやっているようですので、ぜひ読者の方にもフィットネスの良い所をオススメしてほしい所ですo(^o^)o
投稿者 ぞう : 2005年10月22日 11:46
ナブラチロワさんの現役時代は、最大のライバルである
クリス・エバート(ロイド)選手は美人だと思っていまし
たが、私は現役時代のナブラチロワ選手を美人だと感じた
ことはありませんでした。ところが、10年ぐらい前だった
でしょうか、ウインブルドンの中継で、あの名物の雨での
長い中断中に、観客の一人だったエルトン・ジョンがアカペラ
で歌い出した時に微笑みながら手拍子をするナブラチロワさんが映し出された時に、「あっ、きれいな人だ」と、ドキッと
しました。まったく説明しにくい個人的な感覚ですけれど。
投稿者 マーヒー : 2005年10月22日 22:44
喜八さん、こんばんは。
私は不覚にも、今ナブラチロワ選手の顔を思い出せないのですが、姫野さんについて少しお話させてください。
普段、あまり「恋愛小説」を読まないのですが、姫野さんの「ツ、イ、ラ、ク」を読んで、その純度の高い恋愛小説にノックアウトされました。
エッセイも読んでみたいなぁと思うのですが、あの純度の高さに触れてしまうと、どうも立ち読みで見る限りでは、エッセイでは「薄く」感じてしまいまして。一冊の小説で、姫野さんの毒というか濃さに中毒してしまったのかもしれません。笑
>「私、お料理大好き」と恋人でもない男性の前で公言するような女性を激しく忌避
というのは、少し分かるように思います。
喜八さん、「ツ、イ、ラ、ク」はお読みになりましたか?女性の書評は結構読んだのですが、男性はどう感じるのかなぁ、と興味があります。
*私が姫野さんにノックアウトされた、「ツ、イ、ラ、ク」記事をトラバいたしました。姫野さんも、いい意味で「痛い」(感受性の強い)女性なのでしょうね~。
投稿者 つな : 2005年10月22日 23:08
ぞうさん、こんにちは~。
コメントありがとうございます!
姫野カオルコさんは「過激」な方です。
たとえば以下のような文章があります。
>「マドンナなんて色気ないぜー」
> などと得意気に言ってる男を見ると、
>「てめえ、その前に自分の腹をひっこめてみたらどうだ。腕に筋肉をつけたらどうだ」
> と、後ろから蹴り倒してやりたくなる(『初体験物語』姫野カオルコ、朝日新聞社)より引用)。
私は蹴り倒される側かもしれません・・・。(^_^;)
マドンナに関しては次のような記述もあります。
こちらは『ブスのくせに!』からの引用です。
> 貧しい父子家庭に育ち、弟と妹のせわをし、奨学金で大学に進み、35ドルだけを持って、ニューヨークに出てきて「大事業」をなし遂げた女性、それがマドンナだ(『ブスのくせに!』姫野カオルコ、新潮文庫)より引用)。
私はマドンナのことはこの20年間好きでも嫌いでもなかったのですが、上の文章を読んだら一発でファンになってしまいました。
投稿者 喜八 : 2005年10月23日 11:11
マーヒーさん、こんにちは。
コメントありがとうございました。
私は逆にクリス・エバート(ロイド)選手を特に美人だと思ったことはありません。そういえばいま話題のシャラポア選手や少し前に大人気だったアンナ・クルニコワ選手も特に美人だとは感じません。やはり、ちょっと変わっているのかも? (^_^;)
ただし、もし本人に会って少しでも親切にしていただいたら、一気に大ファンとなって「エバート(あるいはシャラポア、クルニコワ)さんは美人でいい人だ」と吹聴して回るような気もします(笑)。
ナブラチロワさんはシャイで繊細な人という印象でした。
これも本気にとってくれる人はあまりいないようです・・・。
投稿者 喜八 : 2005年10月23日 11:12
つなさん、こんにちは。(^_^)/
つなさんも姫野カオルコさんの記事を書かれていたんですね!
スミマセン、気づきませんでした。
じつは念のために、つなさんのブログの「ブログ内検索」で「姫野カオルコ」を調べてはみたのです。
が、「該当する検索結果がみつかりませんでした」という結果がでたのです。アメブロの検索機能はあまり役に立たないのかもしれませんね・・・。
> 喜八さん、「ツ、イ、ラ、ク」はお読みになりましたか?女性の書評は結構読んだのですが、男性はどう感じるのかなぁ、と興味があります。
じつは『ツ、イ、ラ、ク』は現在読んでいます。夜寝る前と早朝5時台に少しずつ読んでいるので、まだ半分にも達していないのですが、これから面白くなりそうな感じです。
姫野カオルコさんの小説はヘビーなので、どの作品も「スイスイ」とは読めません。少しずつゆっくり読むスタイルに合った小説かな、と思っています。
読み終わったら、つなさんの記事にコメントを寄せさせていただきますね~。
投稿者 喜八 : 2005年10月23日 11:13
喜八さん、こんにちはー。今日はとってもいい天気ですね♪
アメブロ検索が使えなくて、申し訳ないです。汗
あれ、全然使えないんですよ。
アメブロの場合、Googleで引っ掛けた方が良いようです。
(私もとらさんとこは、よくGoogleで引っ掛けてます。
何のための検索機能なんでしょう。笑)
喜八さんは早起きでいらっしゃいますね。
朝の時間をそうやって使ってらっしゃるのって、とても賢いと思います!
喜八さんの「ツ、イ、ラ、ク」の感想、楽しみにしていますね。
私はこれを一気に読んでしまい、あの濃ゆい世界から日常に戻るのに、暫く時間がかかりました。笑
投稿者 つな : 2005年10月23日 15:15
つなさん、こんにちは!
本当にいいお天気でしたね。(^_^)v
つなさんはいかがお過ごしでしたか?
私はちょっと買い物に出た以外は本を読んだりPCで作業をしたりのインドアな1日でした・・・。
> 何のための検索機能なんでしょう。笑)
本当に何なのでしょう?
もしかしたら単なるアクセサリーとか?(笑)
いくら無料サービスとはいえ、そういう基本的な部分が改善されないというのは投げやりな印象を受けます。(^_^;)
> 喜八さんの「ツ、イ、ラ、ク」の感想、楽しみにしていますね。
> 私はこれを一気に読んでしまい、あの濃ゆい世界から日常に戻るのに、暫く時間がかかりました。笑
たしかに姫野さんの世界は「濃ゆい」です!
そのためワタシもなかなか読み進むことができないのかもしれません・・・。
投稿者 喜八 : 2005年10月23日 16:22
喜八さん、早速寄り道してしまっています。
このタイトルにフラフラと吸い寄せられてしまいました。
「ブスのくせに!」と怒ってしまう心理、読んでみようと思います。
テーマは多少ずれていますが、私の過去記事「自分の顔が許せない!」(こちらも、私が言った台詞ではありません)をTB させてもらっていいでしょうか?
投稿者 有閑マダム : 2005年11月11日 10:19
有閑マダムさん、コメントありがとうございます!
> TB させてもらっていいでしょうか?
もちろんです!
ぜひともお願いします。m(__)m
姫野さんの『ブスのくせに!』新潮文庫版は現在「版元品切」のようです。
ただし、書店や取次(問屋)には小部数が流通しているようです。
姫野カオルコさんは読者によって「好き・嫌い」がはっきり分かれる小説家だと思います。
試しに「姫野カオルコ体験」をされてみてください~。
投稿者 喜八 : 2005年11月11日 12:46