【お勧めの本】深尾葉子『魂の脱植民地化とは何か』青灯社(2012) 更新!

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2005年12月12日

『穴』

『穴』ルイス・サッカー

』はアメリカの児童文学者ルイス・サッカーLouis Sachar、1954-)の代表作です。1998年度全米図書賞、1999年度ニューベリー賞を受賞。2003年には映画化もされていて、現在日本国内でもDVDやビデオで鑑賞することができます。映画化にあたっては原作者のサッカーさんが脚本で参加しています。

主人公は中学生の少年スタンリー・イェルナッツ(Stanley Yelnats)四世。ちなみに「Stanley Yelnats」は前から読んでも後ろから読んでもおなじ回文となっています。ふとっちょで不器用な少年です。友達もいません。おまけにイェルナッツ家は代々不運続きで現在も恵まれた生活とは決していえません。

このスタンリーが「まずい時にまずい場所にいたために」無実の罪をきせられます。そしてテキサス州の少年院「グリーン・レイク・キャンプ」へと送られることになってしまいます。「グリーン・レイク」という名にもかかわらず、ここには湖(レイク)が存在しません。110年前には「テキサス一のとても大きな湖」があったのですが、まったく雨が降らない日々が続いたため、湖は消滅してしまったのです。

グリーン・レイク・キャンプに収容された少年たちの仕事はただひとつ。を掘ることだけです。毎日毎日、灼熱の炎天下で彼らは深さ1.5m 直径1.5m の穴を掘らされ続けます。「根性を養うため」「人格形成のため」という名目が一応つけられていますが・・・。真の目的が隠されているらしいことにスタンリーは気づいていきます。

精緻なミステリー仕立てのストーリーです。

スタンリーの「ひいひいじいさん」ラトヴィア生まれのエリャ・イェルナッツ、「エジプト人のばあさんマダム・ゼローニ、「西部で心底恐れられる無法者ケイト・バーロウ、グリーン・レイク・キャンプの冷酷な女所長ミズ・ウォーカー、スタンリーと同じテントの仲間、X線イカ磁石脇の下ジグザグゼロぴくぴくという綽名(あだな)の少年たち。彼ら・彼女らの運命が錯綜しつつ、物語は進みます。

もっとも印象的な登場人物はケイト・バーロウでした。またの名を「あなたにキッスのケイト・バーロウ(Kissin' Kate Barlow)」。もとは質素な女性教師でしたが、愛する男性を無残なリンチにより失ったため、保安官を射殺。その後は殺した男だけにキスをするという極めつけの無法者になってしまいます。小説では Kissin' Kate Barlow の活躍はあっさりと描かれていますが、映画版は名女優パトリシア・アークェットが颯爽と女アウトローを演じています。

さらに映画では女所長のミズ・ウォーカーを、これまた名女優のシガニー・ウィーヴァーが伸び伸びと演じています。その悪女ぶりはいっそ爽快なくらいです。シガニー・ウィーヴァーという人が非常な風格を備えていることを再確認しました。

一見風変わりな少年たちの友情、愛する者を失った悲しみと血の復讐、恥知らずなまでの強欲、時代を超えて履行される約束。これらが複雑に入り混じりながら、読者は感動的な大団円へと導かれます。読後感はきわめて爽快です。

なおスタンリーと仲間の少年たちの「その後」は続編『』で語られています。グリーン・レイク・キャンプに送致されるような「ワル」だった彼らですが、現在はおおむね順調にやっているようです。また少年の1人「脇の下」を主人公とした小説が2006年01月にアメリカで出版される予定です。

(『』ルイス・サッカー、講談社、1999)


『道』ルイス・サッカー


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投稿者 kihachin : 2005年12月12日 20:30

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 [amazon] [bk1] 「ひいひいじいさん」がジプシーから豚を盗んだせいで、子々孫々にいたるまで呪いをかけられてしまったイェルナッツ家。皆揃って運に恵ま... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年12月13日 16:18

» 「穴」/Stanley Yelnats from 日常&読んだ本log
ルイス・サッカー, 幸田 敦子, Louis Sachar 「穴 」 Stanley Yelnats。前から綴っても後ろから綴っても同じ名前を持つ... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年01月10日 10:33

» 『穴』 ルイス・サッカー from *モナミ*
児童書なんだけれども、結構シビアというか、 軽く児童虐待物語(笑)。 盗みだとかの悪いことをした子供が送られる、 「グリーン・レイク・キャンプ」は、湖... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2007年07月26日 22:57

コメント

穴・・と無関係ですが
こちらでもお礼を。。

喜八さんはじめここに来ていらっしゃる方
みなさまのご協力に感謝します!ペコリ(o_ _)o))

子猫~ズ
あたたかいやさしいファミリーで 二人一緒にじゃれている・・と思います

たくさんのあたたかいハート 皆様からいただきました
(o^o^o)あ(o^-^o)り(o^o^o) が(o^O^o)と(o^.^o)う

投稿者 MACO : 2005年12月13日 09:31

MACO さん、こんにちは!
コメントありがとうございました。

仔猫たちの里親さんが決まってホッと一安心しました。
姉妹が別れ別れにならずに済み、さらに安心です。

それにしても、50日間も仔猫~ずを入院させていたのでは費用が大変だったでしょうね。
くににゃんさんが「神様」のように思えてきます。

仔猫~ずと関係者の皆様にとびきりの幸運が訪れますように!(^_^)v

投稿者 喜八 : 2005年12月13日 15:17

喜八さん、こんにちは。TBありがとうございました!

シガニー・ウィーヴァー、良かったですよね。
イヤ~な女を好演してて、ほんと風格がありました。
映画だと、あと呪いが解ける瞬間が好きだったです。
…本ではあれほどはっきりと現れてなかったですよね?

「脇の下」を主人公とした小説が出るとは!
全然しりませんでした。情報ありがとうございます。
それまでにルイスの未読本を読んでおかなくっちゃー。
きっと訳されますよね? 訳されるといいなあ。

投稿者 四季 : 2005年12月13日 16:21

四季さん、こんにちは。
ご訪問ありがとうございます。

> 映画だと、あと呪いが解ける瞬間が好きだったです。
> …本ではあれほどはっきりと現れてなかったですよね?

そういえば本では「呪いがとけたのに後で気づいた」という感じでしたね。
いろいろ考え合わせると『穴』に関しては本と映画の両方を総合して楽しむというのが本道という気がしてきました。

> それまでにルイスの未読本を読んでおかなくっちゃー。
> きっと訳されますよね? 訳されるといいなあ。

ルイス・サッカーさんの本はあまり訳されていないですね。
『穴』が評判をとったわりには冷遇されているような・・・。
ほかの作品もどんどん翻訳されるといいですね!

投稿者 喜八 : 2005年12月14日 15:06

喜八さん、こんにちは。
こちらの記事で気になっていたので、読んでみました。
面白かったです~。
記事中リンクを貼ったので、トラバいたしました。

映画も続編もあるのですね。
シガニー・ウィーヴァーの女所長。確かにイメージぴったりですね!
機会があったら、映画の方も見てみたいと思います。
面白い本の紹介をありがとうございました。

投稿者 つな : 2006年01月10日 10:36

つなさん、こんにちは。
トラックバック&コメントありがとうございます。

私もつなさんの記事を参考にして『クラバート』オトフリート・プロイスラーを読もうと思っています。
市内の図書館にあるようですから、近いうちに借りてきます。
『千と千尋の神隠し』に元ネタがあるとは初めて知りました!

投稿者 喜八 : 2006年01月11日 14:35

喜八さん、こんにちは。
おお、嬉しいです!<「クラバート」
喜八さんは、プロイスラーの本を読まれたことがありますか?
プロイスラーは、比較的面白く楽しい本を書く作家だと思いますが、「クラバート」は
他の著作とは異なる雰囲気を持つ本でした。
さて、「千と千尋の神隠し」ですが、私も映画で見てはいるのですが、
「えーと、どこが?」という感じです。笑
子供が修行するというか、働くところしか合っていないようにも思います。
あと、魔法が出てくるところかなぁ。
amazonに書いてあったので、本当だとは思うのですが、ほんとに~?、と思ってしまいます。笑

投稿者 つな : 2006年01月11日 18:27

つなさん、こんばんは。
今日は時間がなくて図書館には行けませんでした(残念!)。
でもインターネットで調べたら『クラバート』はあるようです。
明日、図書館に行って借り出してきますね。
プロイスラーは一度も読んだことがありません。
じつのところプロイスラーの名は今回初めて知りました。
私が利用している図書館には30冊以上の著書があるようです。
ボチボチ借り出してみようと思います。
ご紹介ありがとうございました~。

投稿者 喜八 : 2006年01月11日 20:46