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2006年02月21日

ムスリム

東京ジャーミー 内部

現在、世界はイスラム教キリスト教ユダヤ教の対立が激化し、デモからテロ・戦争に至るまでの紛争が各地で続いています。それらの紛争の中で命を落とす人もけっして少なくありません。命は助かったとしても、家や財産を失い難民となるといった過酷な状況下におかれている方が大勢います。

パレスチナイスラエルのような骨肉の争いとなってしまうと、出口を見つけるのは簡単なことではないのでしょう。傍から見ている人間には「他宗教への寛容こそが大事だ」と思えるのですが、紛争の当事者たちにしてみれば「そんな簡単なことではない」となるのでしょう。

特定の教団には属さない「なんとなく神仏混淆教徒」を自認する私(喜八)にはイスラム教・キリスト教・ユダヤ教のような「一神教」の世界観は理解しがたいのかもしれません。けれども相手を理解しようという気持ちは大切だと思うのです。「《俺たち》と《奴ら》は違う」と決めつけてしまうような心のあり方は、いつかは大虐殺や民族浄化まで行ってしまう危険が高いと考えるからです。

・・・つい「上から目線でものを書いて」しまったようです。話をもっと日常的なレベルに戻します。

ここで、あるイスラム教徒(男性・当時30代)のことをメモ風に書いてみます。以前仕事上のつきあいがあった人です。ささやかではありますが「イスラムを理解するための一助」になれば、と思いブログ記事にします。ただし彼のプライバシーを保護するために、個人情報に関しては曖昧にすることとします。意図的なミスディレクション(誤誘導)も行なうかもしれません。

彼は中東の某国の出身です。彼の母国では国民の大部分がムスリム(イスラム教徒)です。イスラム諸国のあいだでも戒律の厳しい国とゆるやかな国の差は大きいようですが、彼の母国は比較的厳しいほうに属します。仕事の関係で日本に来ることなり、日本人女性と知り合い結婚しました。イスラム教徒は異教徒と結婚することはできないため、彼の奥さんは婚約時にイスラム教に入信しています。また彼はその後日本国籍を取得したため、いまでは夫婦ともに「日本人ムスリム」です。

ムスリムとして、彼はまずお酒を飲みません。豚肉を食べません。犬を飼うことはしません。賭け事はしません。ラマダーンの時期は日の出から日没までのあいだ食事を摂りません。敬虔なイスラム教徒は日に5度の礼拝を欠かさないそうですが、彼が実行していたかどうかは知りません。半日以上ともに行動したこともありますが、そのときは礼拝はしていませんでした。毎週金曜日にはモスクでの集団礼拝に参加します。モスクといっても、彼が(日本で)所属しているところは「一般の民家」だそうです。

お酒を飲まないせいもあってか、非常なコーラ好きでした。それもペプシでなければ駄目で、コカコーラは美味しくないというのです。これは不思議に思いましたが、後にコカコーラの本社にはユダヤ系資本が入っているため、イスラム諸国では人気がないという説を読んで納得がいく思いをしました(『ジョークでわかるイスラム社会』早坂隆、有楽出版社、2004、51頁)。

男女関係においては亭主関白的なところもあり、と同時に女性に対して非常に親切なようでもあり、なかなか複雑です。ひとつ確実にいえるのは彼が大変な「女好き」であったということです。「浮気自慢」をよくしていました。「喜八さん! 結婚しても女遊びはやめられないよ!」というのが口癖のようでもありました。ただし、これがイスラム的な態度なのかどうかは疑問です。

反面、「女性の浮気は絶対に許せない」とも言っていました。これもイスラム的な態度なのかどうかは分かりません。どんな宗教に属していても同じような男性は少なくないはずです。仏教徒あるいは神道教徒の日本人でも身勝手な浮気男性は数え切れぬほど存在するでしょう(笑)。

ところで彼によると「中東の某国はもっと酷い」そうなのです。その国では浮気を疑われた女性は夫によって殺されることが少なくない。そして夫は罪に問われない。ピストルを撃つ真似をしながら「日本人妻で殺された人は多いよ。日本人が知らないだけ」と言うのです。ただしこれが真実であるかどうかは分かりません。ちなみに彼は「某国」によい印象をもっていないようでした。

「無差別テロを行なう過激派組織についてどう思うか?」と質問してみたことがあります。「あの人たちは馬鹿だよ」と吐き捨てるように、ただし小さな声で答えました。彼の国でも自動小銃や爆弾を使ったテロはときどき発生します。

日本の初詣(はつもうで)が話題になったことがあります。その年、彼は奥さんと奥さんのご両親とともに○○神宮に初詣に行ったというのです。これはかなり不思議なことに思えました。そこで質問しました。「あなたはイスラム教徒である。しかるに神道の神社にお参りをする。これはイスラム教徒としてよくないことなのではないのか?」

彼によると「そんなことはない」のです。「日本の神社でも僕は手を合わせて拝む。ただし僕と妻はイスラムの神様だけに祈る。いっしょにいる妻の両親は日本の神様に祈る。お互いに自分の信じる神様に祈るのだから、まったく問題はない」 これを聞いたとき私は思わず感動してしまいました。もっともその感動は一神教への不理解に基づいたものらしいことに後に気づきましたが・・・。

私が身近につきあったイスラム教徒はこの彼ひとりだけです。だから一例をもって短絡的なことはいえないでしょう。でも実感として「ムスリムだから異質だ」とか「理解できない」なんてことはありませんでした。たしかに信仰や国籍が異なるとお互いに「あれ?」と思うことは多くなります。でも違いは違いとして割り切ってしまえばホモ・サピエンスとしての共通点がたくさん見えてくる。外国人と接したことがそれほど多いわけではない私の経験からも、そう言えると思っています。


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投稿者 kihachin : 2006年02月21日 20:12

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コメント

喜八さん、こんにちわ。

私も喜八さんと同じく「なんとなく神仏混淆教徒」を自認組です。 日本人は、このような宗教観の人が多いので、他の宗教の人との結婚もあまり抵抗がないかもしれませんね。
それから、同じムスリムの人の中でも、他の宗教の人が多く暮らしている国で生活している人や、もともと非ムスリムの配偶者を持つ人は、割と柔軟なムスリムという場合もあるのかなあ、とも思います。
日本人女性とムスリム男性カップルの友達がいますが、彼らの場合、妻がどんどん夫を悪い方に(?)誘導してます(笑)。
豚肉を食べてはいけないのに、「ちょっとくらい、わからへん、わからへん。」と、豚を使っただしをとったり、子供が欲しがるからと犬を飼う、いつの間にかお酒もたしなむようになってました・・・。
喜八さんのお知り合いと同じように、結婚するときに妻もイスラム教に改宗しているんですけれどね。 仲良く幸せそうに暮らしていますが、まあ、こんなカップルは珍しいのかも。 

投稿者 有閑マダム : 2006年02月22日 15:28

度々すいません!
ひとつ書き忘れました。
私の拙いブログをブックマークしていただいて、有難うございます。 今後ともよろしくお願いします。

投稿者 有閑マダム : 2006年02月22日 15:33

喜八さんはじめまして、お玉おばさんです。
今日ホテルルワンダを観たものでなんか、この喜八さんの記事が胸に響いてねえ・・宗教戦争を思うとき、神様なんていらない!!と思えることもある・・でもやっぱり、いて欲しいと願わずにはいられない・・

投稿者 お玉おばさん : 2006年02月22日 18:36

はじめまして。
世界での紛争・対立のほとんどは、実は宗教の違いによるものではないのじゃなかろうか、と思います。
原理主義者がテロに際して神の名の出すからといっても、多分にそれは宗教的な問題が発端というよりは、社会的・経済的な不公平や差別などへの怒りといった、当たり前の、人間的な理由が大きいのでは、と。
まあ、イスラムは単なる思想的な面だけでなく、法学、医学等人間生活の諸相に関わるものなので社会風土や文化にもより深く関わっているだろうし、そこに暮らす人間もその影響を受けやすいのかもしれません。しかし宗教的に敬虔であるか否かはその人の人間性や倫理、道徳観に関わることが少なくないとはいえ、これらは必ずしも比例するものでなく、宗教が違うという点に拘泥すると確かに極端でイビツな理解(というか誤解)をもたらしかねませんね。そもそもイスラムは暴力を奨励するものではないわけですし。
ただ、イスラム一番、という意識がムスリムの間では結構強いようで、私の数少ない経験において何度か、「仏教?神道?なんだそれ、なんたってイスラムが最高に良いんだから改宗しろよ」というお節介も受けたことがあります。これまたその人の人間性によるので、全てのムスリムに当てはめられないでしょうが、思うにムスリム達も他宗教を劣るものとして見下し、理解できない(したくない)、と思っている部分が少なからずあるのかもしれません。

投稿者 さえ : 2006年02月22日 21:21

こんにちは。トラックバックありがとうございました。
ところでブラジル人は、ああ見えても(笑)神様を信じているようなのですが、私が観察していて思うのは、なんでも結局は神様のせいにできていいなあということです。その点私たちのように絶対的な基準を持っていないと、何かと言うと自分自身で責任を感じてしまって非常に疲れます。
極端なことを言うと、自分一人ならハエ一匹殺すこともできなくても、神が命ずるのなら何万人でも殺せるくらい、危険なイデオロギーと言えるのでは?ま、それはあくまでも非常手段ですが。
逆に彼らから見ると、日本人こそ何を人生の価値と考えているかわからなくて不気味なんじゃないですか。例えば日本人だったら、例の風刺画のTシャツなんて着てテレビに出るような「逆」狂信的な行動もとらないと思いますし。多分、厄介事は避けるに越したことがない、みたいな感じでしょう。私たちには当たり前でも、彼らから見たら、お前らそれなんやねんと思っているかもしれません。

投稿者 非国際人 : 2006年02月23日 05:28

有閑マダムさん、こんにちは~。
御ブログを勝手にブックマークさせていただきました失礼をお詫びします。m(__)m

> 日本人は、このような宗教観の人が多いので、他の宗教の人との結婚もあまり抵抗がないかもしれませんね。

その点については深く考えていませんでした。
私自身も今後、イスラム教やユダヤ教の女性と結婚して彼女の信じる宗教に帰依する、ということもありえます(笑)。

ふと気づくと有閑マダムさんも国際結婚をして現在は外国に住まわれています。
今後は国際結婚が増えていくのでしょう。
そういう自然な国際化は素敵ですね。(^_^)v

投稿者 喜八 : 2006年02月23日 13:03

お玉さん、こんにちは。
ご訪問ありがとうございます。

当時ルワンダの内戦のニュースに接して私が考えたのは「差別感情は『人殺し』のためのもっとも有効な道具である」ということでした。

現在の日本はムスリムや永住外国人にとっては住みにくい国になりつつあるようです。
彼ら彼女らにとって住みにくい国は、日本国籍をもつ私にとっても住みにくい国になるでしょう。
そのような気持ちもあり上の記事を書くことにしました。

投稿者 喜八 : 2006年02月23日 13:04

さえさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

> そもそもイスラムは暴力を奨励するものではないわけですし。

そうなのですね。そもそもイスラムに限らず、あらゆる宗教は「平和」を志向するものではないでしょうか。知識不足の私にははっきりとしたことは言えませんが・・・。

> 思うにムスリム達も他宗教を劣るものとして見下し、理解できない(したくない)、と思っている部分が少なからずあるのかもしれません。

上の記事で取り上げている「彼」に正面から訊いたことがあります。「君たち一神教徒にしてみれば仏教徒なんて劣っているように見えるのではないか?」と。
われながら意地悪い質問です(笑)。
彼は「そんなことはない」と一言のもとに否定していました。
いろいろな文献にはイスラム教徒は異教徒に寛容である、と書かれています。
ただし、さえさんが指摘されているように「これまたその人の人間性によるので」しょうね・・・。

投稿者 喜八 : 2006年02月23日 13:05

非国際人さん、こんにちは。
非国際人さんも「国際結婚」組でしたね!

> 逆に彼らから見ると、日本人こそ何を人生の価値と考えているかわからなくて不気味なんじゃないですか。

そうでしょうね。(^_^;)
上の記事で私は「なんとなく神仏混淆教徒」と書いていますが、これは一神教の人からは理解しがたい態度のようです。
「それは何も言っていないのと同じ」という批判を受けたこともあります。
が、私は私で「ほっといてくれ」と思います(笑)。

> 例えば日本人だったら、例の風刺画のTシャツなんて着てテレビに出るような「逆」狂信的な行動もとらないと思いますし。

それはどうでしょうか?
たとえば石原都知事の「三国人発言」「フランス侮辱発言」などは同じような言動だと私は受け止めています。
外国人を侮辱するのはポピュリズム手法の「初歩中の初歩」ですから、同様の政治家は世界中に大勢いると思います。

投稿者 喜八 : 2006年02月23日 13:07

ちょうど、喜八さんがこの記事をエントリーされた翌日に、『世界六大宗教101の常識』という新書を購入したので、その記事をTBさせていただきます。
宗教とは、日本人にはなかなか馴染みにくい気がしますが、世界を相手にする時、いろいろな宗教は避けて通れないし、やはりある程度は理解しておかなくちゃあ、いけないですね。

投稿者 とら : 2006年02月26日 17:56

とらさん、こんにちは。
『世界六大宗教101の常識』ですか。
興味深そうですね。
後で書店で探してみます!

最近、私は小室直樹さんの『日本人のための宗教原論』徳間書店(2000)と『日本人のためのイスラム原論』集英社インターナショナル(2002)を読んで、にわかに「宗教通」になったような気がしています。
もちろん錯覚ですけれど!(笑)

投稿者 喜八 : 2006年02月27日 13:25

クリスチャンの一人として,小室直樹の本はデタラメばかりで,亡くなった山本七平(イザヤ=ベンダサン)とほとんど同類ですから,信じるとバカを見ると言わせて下さい。ついでに,引用されている Wiki の記事もMSが素人に書かせているいい加減なもんですから,信用されるとやはりバカを見ます。

キリスト教やユダヤ教やイスラム教が一神教だなんていうデタラメをどこの哲学者が言い出したのか分かりませんけど,勉強不足だとしか言えません。例えば旧約聖書の「歴史書」と呼ばれる「サムエル記」「列王記」や「諸書」の一つの「歴代誌」などを批判的に細かく読んでみると,そこには「Baar」(バアル)とひとくくりにされた様々な多神教と,「YHWH」(ヤーウェまたはヤハウェ)というイスラエル民族の唯一神との混淆や純粋化のための争いなんかが書かれてまして,古代パレスチナの宗教というのは決して一神教でなかったことが分かります。面白いことに,キリスト教がギリシアからイタリアつまりヨーロッパへ伝道されていく時に,大量の殉教者が聖人として神様扱いされて行きました。だから,聖人をまつる宗派は多神教だと言うことも言えなくもありません。

イスラム教に関しては,岩波新書新赤版の片倉もとこ『イスラームの日常世界』が一番分かりやすいと思います。また,NHK のラジオ講座でアラビア語を齧られてみると,さらに理解が進むかと思います。

投稿者 kaetzchen : 2006年03月20日 23:08

> kaetzchen さん

> クリスチャンの一人として,小室直樹の本はデタラメばかりで,亡くなった山本七平(イザヤ=ベンダサン)とほとんど同類ですから,信じるとバカを見ると言わせて下さい。ついでに,引用されている Wiki の記事もMSが素人に書かせているいい加減なもんですから,信用されるとやはりバカを見ます。

あれ? そうですか?
それでは今後は批判的視点を強化して読むこととします(もっともどの著者の本であっても、そのまま受け取ることはしないようにしていますが・・・)。

故・山本七平氏に関しては浅見定雄氏の『にせユダヤ人と日本人』をずっと以前に読んだことがあります。もう20年以上前になりますね。

> イスラム教に関しては,岩波新書新赤版の片倉もとこ『イスラームの日常世界』が一番分かりやすいと思います。また,NHK のラジオ講座でアラビア語を齧られてみると,さらに理解が進むかと思います。

『イスラームの日常世界』ですか。
近いうちに読んでみます。
親切なアドバイスをありがとうございます。

投稿者 喜八 : 2006年03月21日 12:26