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2006年03月14日

『国富消尽』

『国富消尽』吉川元忠、関岡英之、PHP研究所(2006)

 小泉首相は、「改革以外に日本の再生はなく、郵政民営化は構造改革の”本丸”だ」と強引に主張を展開してきたが、それは郵便局をどう運営するかが基本的な問題ではない。国民の目に触れぬよう巧妙に隠されてきたものの、三四〇兆円に上る郵貯・簡保資金を、財政・経常収支における双子の赤字に打つ手も見当たらないアメリカに献上してしまおうというのが本質である。
 しかし、それをアメリカに献上すれば日本はどうなるのか。金融資産をこれだけ抜かれては国の存亡さえ覚束ないことからすれば、そんなことを推進する政治家など考えられないのである。
 小泉首相は”米国のエージェント”とでもいうべき竹中平蔵郵政民営化担当相(当時)を使って、この「考えられない」ことを推進してきた。

上記は『国富消尽 対米隷従の果てに』PHP研究所(2006)の2人の著者のうち吉川元忠さんの言葉で、第1ページから記載されています。吉川元忠さんは『国富消尽』の刊行を目前とした2005年10月に逝去されました。本書は吉川さんの「遺書」と言ってよいものでしょう。ご冥福をお祈り申し上げます。

もうひとりの著者関岡英之さんは前著『拒否できない日本』文春新書(2004)により一躍注目を集めたノンフィクション作家です。日本の「独立自尊を護持」するためにアジア・イスラム諸国との連帯を提案する、スケールの大きな構想の持ち主でもあります。

『国富消尽』の内容をごく大雑把にまとめると以下のようになると思います。

*********************************************

アメリカは財政赤字と経常赤字という「双子の赤字」に苦しんでいる。このままでは破綻はまぬがれないだろう。そのアメリカを買い支えているのが日本である。

アメリカは日本を自らにとってさらに都合のいい国にするため内政干渉を重ねてきた。1980年代以降、日本の諸制度はアメリカにより一方的に改造されてきたのだ。そして日本政府は国民の利益(国益)を損なう懸念があるにもかかわらず、アメリカの要求に唯々諾々と従ってきた。

M&A・新会社法・司法制度改革・医療制度改革など現在進行中の「構造改革」「規制改革」と称するものの多くは、アメリカ政府が自らの「国益」のために日本に要求してきたものだ。

小泉首相がしゃにむに進めてきた「郵政民営化」も、その本当の目的は120兆円に上る官営保険(簡易保険)を市場開放し、アメリカの金融業者に資金を流すことである。

日本から吸い上げた資金で潤うアメリカの富裕層。彼らはその資金で日本企業を安く買い叩こうとしている。彼らの資金はもともと日本国民の財産であるにもかかわらず日本政府がアメリカに流したものである。つまり日本は自らのカネで買い占められようとしている。

いまのままアメリカによる日本改造を許していたら、円はドルに飲み込まれ(「円のドル化」)、日本は文字通り「アメリカの五一番目の州」になり下がる。そしてマネー循環を通してアメリカの属領と化してしまうだろう。

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以上の私(喜八)の「まとめ」はまったく頼りのないものでしょう。
吉川・関岡両氏の主張は詳細で膨大なデータに支えられ、説得力も充分です。アメリカによる「日本改造」「内政干渉」にご興味がありましたら、ぜひとも本書『国富消尽』の一読をお勧めします。

ところで関岡英之氏が本書や『拒否できない日本』で取り上げている「年次改革要望書」は毎年秋に米日政府間で交換されている外交上の公式文書です。「年次改革要望書」によるアメリカの要求は日本の立法・行政・司法の三権におよび、実際に日本の法律や制度を変更させてきました。

この「年次改革要望書」はインターネットで見ることができます。「在日米国大使館」トップページの上部メニューから「政策関連文書」を選択し、飛んだ先のページのメニューのうち「経済・通商関連」をクリック。さらに飛んだ先のページの「規制改革」の中の「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 (2005年12月7日) 」を選択すると PDF ファイルが開きます(2006年03月14日現在)。もし「PDF ファイルの使い方がよくわからない」という方がいらっしゃいましたら、下段「参考ページ」のリンクを参照ください。


著者略歴

吉川元忠(きっかわ・もとただ、1934-2005)
1934年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、日本興行銀行入社。コロンビア大学客員研究員を経て、神奈川大学経済学部教授。2005年10月、永眠。著書に『マネー敗戦』文春新書(1998)等がある。

関岡英之(せきおか・ひでゆき、1961-)
1961年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。東京銀行入社。海外経済協力基金(現・国際協力銀行)出向などを経て、約14年の勤務の後に退職。1999年、早稲田大学大学院理工学研究科に入学。2001年、同修士課程を修了。著書に『拒否できない日本』文春新書(2004)など。

(『国富消尽』吉川元忠、関岡英之、PHP研究所、2006)


参考ページ


投稿者 kihachin : 2006年03月14日 20:51

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コメント

日本語で用意されていること知りませんでした。
それにしてもstrategic impediment initiativeを日米構造協議と誤訳している時点からだめですね。initiativeは自分たちが有利なポジションを占めるための先制攻撃ですね。イニシャティブをとるって日本語にもなってるのに、意図的な誤訳でしょう。

投稿者 日暮れて途遠し : 2006年03月15日 20:18

日暮れて途遠しさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
御ブログの記事は毎日チェックさせていただいています。
strategic impediment initiative は日本側からアメリカに要求をだしてはいるのですね。
でも、それがどれだけ実現されているのか?
検証する必要がありそうです。
でも「日本によるアメリカ改造」という事実はなさそうですね・・・。

投稿者 喜八 : 2006年03月16日 05:55

興味深い本のご紹介、ありがとうございました。読んでみます。私は書店に行くのが趣味?なのですが、本は何しろ刊行数が多すぎて、とてもとてもチェックしきれません。こうやって書評のような形で紹介いただくと、実にありがたいです。

アメリカの51番目の州……そうですね……既に内実的には半属領ではないかとよく思います。20世紀までの「属国」とは違った形の。

投稿者 華氏451度 : 2006年03月18日 20:05

華氏451度さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

> アメリカの51番目の州……そうですね……既に内実的には半属領ではないかとよく思います。20世紀までの「属国」とは違った形の。

実際にはアメリカの側で「51番目の州になんかしてやらないよ」と思っているのではないかと想像しています。
正式の州にすると、いろいろと面倒ですからね。アメリカ政府としては。
このまま日本国を「名目だけ独立」状態にして、「骨までしゃぶる」戦略をとってくるのではないでしょうか・・・。

投稿者 喜八 : 2006年03月19日 11:46