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2006年03月22日

『国家の崩壊』

『国家の崩壊』宮崎学・佐藤優、にんげん出版(2006)

本書『国家の崩壊』宮崎学・佐藤優、にんげん出版(2006)は外務省職員の佐藤優さん(起訴休職中)が、旧ソビエト連邦崩壊を解説した一冊です。佐藤さんと親しい「キツネ目の男宮崎学氏が主宰する研究会における連続講義(全8回)がまとめられています。

佐藤優さんは1987年にモスクワに赴任した後、旧ソ連の政治家・官僚・実業家・学者・言論人・宗教家・公安関係者・マフィアなど膨大な人脈を築き、諜報活動を行ないました。その過程で、「改革派」と「守旧派」の政治闘争、深刻な民族紛争、1991年08月の守旧派によるクーデター、同年12月のソ連邦崩壊、資本主義の勃興と混乱を目の当たりにしました。

「国家」が崩壊する際、そこに所属する人々がどれだけ悲惨な目に遭うか。そのことを骨の髄まで知り抜いている佐藤さんは自ら「国家主義者」であると宣言します。と同時に「国家は必要悪」と喝破もします。国家は「悪」ではあるけれど、もし国家が崩壊したら、その後には国家より悪いものが来るという認識が佐藤さんにはあるのです。

佐藤さんによると「人為的に作りあげられた民族対立は、物凄く怖い」そうです。「民族感情、民族意識というのは、ちょっとさわり方を間違えると、物凄く感情を煽って、どんな合理性に反することでも平気で惹き起こす」。佐藤さんは日本国内で排外主義的ナショナリズムが高まることを強く警戒しています。行き過ぎた排外主義的ナショナリズムは結局のところ日本の「国体」を毀損し、日本に住む人々の生活を破壊する可能性が高いからでしょう。

ところで本書の335ページに、ウラジミール・レーニン(1870-1924)について以下のような記述があります。

 おそらくは、レーニン自身にトロツキー的な要素とスターリン的な要素の両方があったと思うんです。ところが、レーニンは、独特のプラグマティズムで、そこのところを曖昧にしていたわけです。彼の著作を読んでいると、何か有能な弁護士と話しているみたいです。どこに本当の考えがあるのか、なかなかわからない。

これは「情報屋」佐藤優について、私(喜八)が抱いている印象とそっくりです。佐藤さんが精力的に発表している文章群を読んでいても、「どこに本当の考えがあるのか、なかなかわからない」。敢えて「真の狙い」を韜晦(とうかい)するようなところが佐藤氏にはあります(たとえば高橋哲哉著『靖国問題』への論評など)。

おそらく佐藤優さんのもっとも根底にあるのは「平和の追求」であるのでしょう。自身が独特のプラグマティスト(pragmatist、実用(実際)主義者)である佐藤さんには、平和を叫ぶだけでは平和は実現されないという「見切り」があるのだと思います。そのため権謀術数を含めたあらゆる手段を使って平和を希求する。佐藤氏のそういう部分が「ダーティー」に感じられる人も少なくないようですが・・・。

国家の崩壊』を読んでいる際、「戦争と平和」という言葉が何度も脳裏に浮かびました。絵空事ではない現実の戦争・内乱・紛争・民族浄化・虐殺に接した佐藤さんには「人間同士の殺し合い」を阻止しようという強い意志がある。そう私は感じます。私が「思想家」佐藤優を支持する最大の理由はそこにあります。

(『国家の崩壊』宮崎学・佐藤優、にんげん出版、2006)


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投稿者 kihachin : 2006年03月22日 20:21

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コメント

まさに細部に真実が宿るですよね。
その細部の情報の集め方と整理の仕方がすごい、それを論理的に組み立てる知識と知性がすごい。何より記憶力がすごい。これが全部勉強会で語られたとすれば気が遠くなる情報量が整然と頭に詰まっていて口から出てくるのですから。現代の稗田阿礼でしょう。ご本人の話を聞いた人は納得ですよね。

投稿者 日暮れて途遠し : 2006年03月23日 21:41

> 日暮れて途遠しさん

佐藤優さんは私にとって「先生」という感じです。
「新自由主義」と「排外主義的ナショナリズム」に抵抗するための。

ところで日暮れて途遠しさんと私には共通点が2つありますね。
ひとつは佐藤優さんを応援していること。
もうひとつは美空ひばりさんのファンであることです。
『リンゴ追分』は私にとって「この世の中でもっとも素晴らしい歌」です・・・。

投稿者 喜八 : 2006年03月24日 09:48

喜八さんはひばりさんファンでしたか。それはどうも。
もともと、2000年に一人の天才ひばりさんがいかにすばらしいか、映画や音楽に沿ってブログに書いていこうと思っていたのですが、小泉・竹中が視界から消えるまで政治matterから抜けられそうにありませんね。ひばりさんについて書きたくなったときはヤフーの掲示板(音楽・全般・美空ひばりさんについて)でたまに投稿することにしています。
もう一つ共通点がありますよ。私も半年前までは運動オタクで、ほぼ毎日2000mのswimmingを日課にしていました。

投稿者 日暮れて途遠し : 2006年03月25日 17:35

日暮れて途遠しさん、こんばんは。

> 私も半年前までは運動オタクで、ほぼ毎日2000mのswimmingを日課にしていました。

それは凄いですね。
私も以前(もう少し若い頃)、週3~4回、1000m の水泳を行なっていたことがあります。
あの「倍」で頻度も多い、となるとかなりのレベルのスイマーであることが想像できます。
凄い体力ですね。素晴らしい。

投稿者 喜八 : 2006年03月25日 21:20