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2006年06月25日

『自壊する帝国』

『自壊する帝国』佐藤優、新潮社

自壊する帝国』は起訴休職中の外務事務官佐藤優さんによる最新刊(2006年05月30日発行)です。2005年03月に上梓されベストセラーとなった『国家の罠』の続編にあたります。読後感は「外交官佐藤優の青春記」、あるいは「不思議な友情の物語」でした。

佐藤優さんは1985年04月外務省に入省。欧亜局ソビエト連邦課に配属され、ロンドン郊外の英国陸軍語学学校でロシア語を学んだ後、モスクワ国立大学言語学部に留学。2年間の研修期間を終えてからは在モスクワ日本大使館に配属されました。そして1991年のソ連崩壊を内部から観察し続けました。

本書にはすこぶる魅力的な「怪人物」が次々と登場します。アレクセイ・ニコラエビッチ・イリイン旧ロシア共産党第二書記、「ソ連維持運動の中心的人物ビクトル・アルクスニス空軍大佐、ロンドンで古本屋「インタープレス」を経営する亡命チェコ人ズデニェク・マストニーク、怪僧ビャチェスラフ・セルゲービッチ・ポローシン、佐藤さんが「私の人生を一変させた人物」と呼ぶアレクサンドル・カザコフ・・・。

佐藤優さんは外交官の職務として、日本の「国益」を追求するため、上記「怪人物」たちと親交を深めていきます。とはいえ、そこには単なる方便だけでなく、たしかに友情が存在するようなのです。国籍も思想も異なる男たちの心を打つ「なにか」が佐藤氏の内に存在するのでしょう。

佐藤さんが「私が親しくした数多くのロシア人政治家のなかでも、最も印象に残る人物の一人」とするイリイン旧ロシア共産党第二書記。彼は1991年08月19~21日の「クーデター未遂事件(ゴルバチョフ大統領が守旧派により軟禁され、一時は死亡説も流れた)」の際、「ゴルバチョフ生存」等の重要情報を「西側の」「下っ端の外交官」佐藤優氏に流してくれた人物です。イリインはその理由を次のように語ります。

理由だって。サトウ、わかるかなぁ、人間は生き死ににかかわる状況になると誰かにほんとうのことを伝えておきたくなるんだよ。真実を伝えたいという欲望なんだ。子供を作りたいという気持ちに似ている
 (中略)
マルクス・レーニン主義でもキリスト教でも、あるいは愛国思想でも、信奉しているイデオロギーは何でもいいんだが、信念をたいせつにする人と信念を方便として使う人がいる。君は信念をたいせつにする人だからだ。周囲に他にそういう人が見あたらなかった。

イリインは「自らのためには頭を下げない」、つまりクーデター失敗後もエリツィンらに命乞いをすることをよしとしなかった硬骨漢でしたが、「部下のためならばいくらでも頭を下げ、再就職を頼み込」みました。そのようにモラルの高いイリインも、ソ連崩壊後はウオトカに依存するようになり、1997年に心臓麻痺で死亡したそうです。

このエントリーの冒頭で述べたように『自壊する帝国』は「外交官佐藤優の青春記」「不思議な友情の物語」として読むことができます。けれども本書は単なる回想録ではありません。著者の佐藤優さんには現在の日本が自壊しつつあるのではないかという非常に強い危機感があります。

おそらく日本人の大部分は、日本が崩壊するはずはないと思っているだろうが、国家というのはある日、突然に崩壊することもあるのだ。

佐藤優さんのこの危機感を私(喜八)も共有します。今後、日本という国が存続するできるかどうか、けっして楽観はできないと思っています。長期にわたる経済の停滞、膨れ上がる一方の財政赤字、急速に進行する「少子高齢化」、60年以上にもおよぶ「在日米軍」の駐留、そのアメリカの常軌を逸した世界戦略、隣国中国の大国化・・・。

自壊する帝国』ほかの佐藤さんの一連の著書は、日本国とそこに暮らす我々(日本人および永住外国人)が、困難な状況の中で「サバイバル」していくための、「最良の実用書」だと私は考えています。

(『自壊する帝国』佐藤優、新潮社、2006)


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投稿者 kihachin : 2006年06月25日 08:04

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