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2006年07月26日

芙蓉と乱歩

アメリカフヨウの花

(女性の)わびすけさんから「アメリカフヨウ」の花の画像を送っていただきました。ありがとうございます!

以下はわびすけさんの文章です。

喜八さんこんばんはー。
全国で雨の被害がひどいようですが喜八さんの所は大丈夫ですか?
今日は小雨だったので「アメリカフヨウ」を見てきました。
子供の頭くらいの大きさで。
デジカメでどう撮って良いかわからなくって適当にパチリと・・。
アメリカフヨウ

(以下ふたたび喜八)
「アメリカフヨウ」。
フヨウ」は「芙蓉」。
「芙」も「蓉」も普段はあまり使わない漢字ですね。

ところで「芙蓉」の文字を目にした途端「木下芙蓉」という人名を連想しました。と同時に「木下芙蓉」は江戸川乱歩小説の登場人物であることも思い出しました。

というわけで今回は江戸川乱歩に話題をもっていきます(かなり強引ですが・・・)。

 この話は、柾木愛造《まさきあいぞう》と木下芙蓉《きのしたふよう》との、あの運命的な再会から出発すべきであるが、それについては、まず男主人公である柾木愛造の、いとも風変わりな性格について、一言しておかねばならぬ。
 柾木愛造は、すでに世を去った両親から、いくばくの財産を受け継いだひとりむすこで、当時二十七歳の、私立大学中途退学者で、独身の無職者であった。ということは、あらゆる貧乏人、あらゆる家族所有者の、羨望の的であるところの、このうえもなく容易で自由な身のうえを意味するのだが、柾木愛造は不幸にも、その境涯を楽しんでいくことができなかった。かれは世にたぐいもあらぬ厭人病者であったからである。

上記は江戸川乱歩の短編小説『』(注1)の冒頭です。

『虫』は柾木愛造の木下芙蓉に対する「死にもの狂いな恋」「物狂わしい人外境の恋」を描いた小説です。大正から昭和初期にかけて「エログロナンセンス(エロティック・グロテスク・ナンセンス)」の代表と目された江戸川乱歩の全小説中でも、もっとも悪魔的な作品であると私(喜八)は思います。

引用文中にもあるように「世にたぐいもあらぬ厭人病者」の柾木愛造は子供のころから他者と交わるのが大の苦手。病後の養生にかこつけたり仮病を使ったりで学校にもあまり通わず、書斎にこもって小説本を読んだり荒唐無稽な幻想に浸るような子供でした。

両親があいついで他界した後、愛造はなんの未練もなく私立大学を中退し、「向島《むこうじま》の吾妻橋《あづまばし》から少し上流のKという町」(注2)の寂しいあばら家へと引き移り、そこの大きな土蔵に篭って世捨て人同然の生活を送っていました。

ところが、ふとしたことから小学校時代ほのかな憧れの対象であった同級生「木下文子」──現在は新進女優「木下芙蓉」──と再会します。その再会を機に柾木愛造と木下芙蓉は恐るべき破滅の道を辿ることになります・・・。

この『虫』は誰にでも勧められるという小説ではありません。「絶対にダメ!」という方のほうが多いだろうと思います。逆に『虫』に魅了されるような方なら江戸川乱歩ファンとなる可能性はきわめて高いでしょう。

こんなことを書いているうちに乱歩作品を読み直したくなってきました。おどろおどろしく怪しい乱歩ワールドに耽溺する。これは楽しそうです。そのうちブログに「江戸川乱歩マイベスト5」というような記事をアップすることになるかもしれません・・・。


注1:『虫』の元の表記は『蟲』です。旧字のほうが作品世界には合致しています。

注2:「Kという町」は『乱歩「東京地図」』冨田均(とみた・ひろし)、作品社(1997)によると「向島小梅」だそうです。現在の東京都墨田区押上2丁目に相当。

アメリカフヨウ

投稿者 kihachin : 2006年07月26日 20:30

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