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2006年11月27日

『平和に暮らす、戦争しない経済学』

『平和に暮らす、戦争しない経済学 経済学的に平和を守る56の方法』森永卓郎

 戦争と経済。一般的に、この両者に密接な関わりがあるとはあまり思えません。現実にも関係づけて語られることはめったにないけれど、じつは深いところでつながっています。戦争に対する考え方と経済思想のあいだには、公式のようなものがあるのです。
 いわゆるタカ派と呼ばれる人たちは、基本的に「戦争を肯定し、軍備を持つこと」を支持します。同時に経済面では「弱肉強食、市場原理社会のアメリカ型経済構造」を支持します。
 その反対側にハト派と呼ばれる人たちがいて、彼らは「平和と平等」を好みます。戦争や弱肉強食の競争社会を否定します。
 このように、戦争と経済に対する人の態度には、正反対の性格を持つ公式が成り立つのです。では、なぜそうなってしまうのでしょうか。結論は、つまるところ「自分の利益だけを考える」のか、それとも「もっと広い人たちの利益、あるいは幸せを考える」のか、この差だと思います。

経済アナリスト森永卓郎さんの著書『平和に暮らす、戦争しない経済学 経済学的に平和を守る56の方法』アスペクト(2006)よりの引用です(10頁)。いわゆる「タカ派」の人に市場原理主義信奉者が多く、「ハト派」は市場原理主義を否定的に捉える傾向があるという指摘は一般論として当たっていそうです。

ただし「そもそも市場原理主義ってなんだ?」と思われる方も少なくないでしょうね。実際に厳密な定義があるわけではありませんが、古典派経済学のドグマ(教義)である「レッセフェール(自由放任主義)」の熱心な信奉者であると、定義することができると思います(ものすごく大雑把な定義ですが・・・)。

「レッセフェール(自由放任主義)」とはフランス語で「なすにまかせよ」という意味です。政府がなるべく市場に介入せず、個々人の自由な競争を基にした市場メカニズムにまかせれば、すべては上手く行くという経済思想です。経済学の始祖アダム・スミスの「神の見えざる手」という有名な言葉を社会科で習ったことを覚えている方は少なくないでしょう。

現在のアメリカ合州国では「レッセフェール(自由放任主義)」を重視する古典派的な経済思想が主流です。また、近年の自民党政権はアメリカのいうことなら何でもかんでも受け入れるという「アメリカ一辺倒・米国追従」がドグマであるようです。したがって日本も米国型の市場原理主義社会に改造されつつあります。

このごろは日本も「格差社会」になったということがよく話題になりますね。この「格差」は自然と生じたわけではありません。日本を「弱肉強食、市場原理社会のアメリカ型経済構造」へと「構造改革」した当然の帰結です。「レッセフェール(自由放任主義)」という経済思想が現実的な力をもって日本社会の形を急激に変えたのです。

「アメリカを手本として日本を改造する」。これはよくよく考えてみると非常に怖いことです。冒頭に引用した森永さんの指摘が正しければ、「弱肉強食、市場原理社会のアメリカ型経済構造」へと変貌した日本はまた「戦争を肯定し、軍備を持つこと」を当たり前と考え、頻繁に外国に戦争をしかける「アメリカのような国」になってしまう可能性が高いからです。

アメリカ合州国は「定期的に戦争をしなければやっていけない国」です。米国には巨大な軍需産業があり、「産軍学複合体」と表現されるように産業界・軍隊・大学および研究機関が密接に結びつき、膨大な利権を分け合っている。国がどんどん「仕事」をまわさないと産軍学複合体は生存を続けることができない。その結果が「ビジネスとしての戦争」というわけです。もちろん、これは本物の戦争ですから、多くの人々の無残な死をともないます。

ところで、日本が「アメリカのような国」になろうとしても、実際になれるわけではありません。アメリカの言うがままに日本を改造してゆく。この壮大ではあるが愚かしい実験の行き着く先は、日本を「アメリカにとって都合のいい国」「アメリカの手先となって戦争をする国」に仕立て上げる結果となるでしょう。それが日本国民にとってはたして「いいこと」であるかどうか。我々ひとりひとりが真剣に考えたほうがいいと思います。

 世界の状況は、1951年にサンフランシスコ講和条約と同時に日米安全保障条約が調印されたときとも、米vs露の冷戦構造時代とも大きく変わっています。それなのに、日本は50年以上前のまま思考停止している状態です。
 自民党政権の「アメリカに守ってもらえばいい。アメリカにべったりくっついているのがいちばん安全だ」という考え方は、いまとなっては、ただの盲信に過ぎません。現実を直視していない。世界情勢を読めていない。政府として、日本の安全保障を真剣に考えるという責任を放棄していることなのです。それを自覚して、日米関係最優先の方針を考え直す時期に日本は来ている。私はそう思います。


(『平和に暮らす、戦争しない経済学』森永卓郎、アスペクト、2006)


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投稿者 kihachin : 2006年11月27日 17:08

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