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2007年04月14日

『悪夢のサイクル』

『悪夢のサイクル』内橋克人


内橋克人著『悪夢のサイクル』というタイトルは「ネオリベラリズム・サイクル」を意味します。

と言っても経済用語に不案内な多くの方は「なんだそれ?」となるのではないでしょうか。そもそも「ネオリベラリズム」の部分で「???」となりそうですね。

「ネオリベラリズム」は「新自由主義」とも呼ばれます。1970年代にアメリカ合州国で育ち、80年代以降に米国レーガン大統領や英国サッチャー首相に採用され隆盛をきわめ、いまも北米大陸や東アジアなどの地域で主流になっている経済思想(イデオロギー)です。

その特徴を一言でいうと「自由市場至上主義」とでもなるでしょうか。すべての経済活動は「自由市場」にゆだねるのが、もっとも効率的である。国家による市場への介入は最小限に抑えろ。「小さな政府」を目指せ。そうすればすべては上手く行くのだ。こういった原理主義的な色合いの濃い「思想」です。

「ネオリベラリズム」のキーワードをいくつか挙げてみましょう。「規制緩和」「自由化」「民営化」「累進課税の見直し」「所得税減税」「自己責任」「頑張った者が報われる」「行き過ぎた福祉の見直し」・・・。おや? どれも聞き覚えのあるものばかりですね(笑)。

そうです。現在の日本は米国を源《みなもと》とする「ネオリベラリズム(新自由主義)」潮流のまっただなかにあるのです。このごろは「格差社会」「勝ち組・負け組」「下流」「ネットカフェ難民」ということがよく言われますが、これらの現象も「ネオリベラリズム」と密接な関係があります。

ここで『悪夢のサイクル』から「規制緩和」に関する証言を引用してみましょう。米国で70年代に「航空自由法」の制定にかかわり、規制緩和を推進した学者ポール・デンプシーの証言です(29頁)。

「もし、あなたが日本で規制緩和しようと言うのなら、こう理解しておけばいい。要するに規制緩和とは、ほんの一握りの非情でしかも貪欲《どんよく》な人間に、とてつもなく金持ちになる素晴らしい機会を与えることなのだと。一般の労働者にとっては、生活の安定、仕事の安定、こういったものすべてを窓の外に投げ捨ててしまうことなのだと」

ポール・デンプシーは80年代に入ると、規制緩和による自由化は労働者の生活水準を劇的に低下させ安全も脅かされることを認め、規制緩和には反対の姿勢をとるようになりました。

前述の米国「航空自由法」による規制緩和が実施されて、航空業界はどうなったか? 競合会社に勝つための経済合理性を欠いた値下げ競争、賃金・労働条件の悪化、コスト削減による安全性の低下、利益優先による公共性の喪失。企業体力の弱い会社は倒産したり合併吸収されたりして航空業界内で寡占化が進行・・・。

その結果、当初の狙い(自由競争によるサービス・安全性の向上)などはまったく達成されず、逆に独占による運賃の上昇・赤字路線の廃止(地方住民の切り捨て)などさまざまな弊害が生じてしまいました。つまり「規制緩和」とは、かならずしも「いいもの」ではないわけです。それどころか、扱い方を間違えると多くの人々に大変な厄災をもたらしかねない、「劇薬」だと思っていたほうがいいでしょう。

「ネオリベラリズム・サイクル」に話を戻します。これがどういうものを正確に知るためには本書『悪夢のサイクル』を読んでいただくしかないのですが、以下ごくごく大雑把に解説してみます。

ネオリベラリズム政策により、資本移動の自由化と金融規制の緩和が実施される。
 ↓
海外から金融資本が流入する。
 ↓
バブル的な好景気の発生。
 ↓
実態経済以上の通貨価値の上昇。
 ↓
ヘッジファンドなどの投機資金が通貨の「空売り」等を仕掛け通貨暴落を演出する。その結果それまで流入してきた大量の資金が一気に外国に逃避する。
 ↓
バブルの崩壊。国家経済の破綻。

こういったサイクルが繰り返されることにより、国内の企業や国営事業が外資により支配される。貧富の差は拡大し、国土は疲弊し、人心は荒廃する・・・。

以上は絵空言なんかではなく、実際に「アメリカ合州国の裏庭」といわれる中南米諸国で起こったことです。その結果、ネオリベラリズム(新自由主義)政策などは「ろくでもない」ということになり、反動で中南米では左翼政権が次々と出現しました。ベネズエラのチャベス政権などは日本でもよく知られていますね。

そして日本もまたネオリベラリズムの「当事者」なのです。「ネオリベラリズム・サイクル」は他人事ではありません。バブル景気とその崩壊。その後の規制緩和・自由化・民営化(小泉・竹中政権による郵政民営化!)。中小零細企業の倒産。年間3万人を超える自殺者。雇用の縮小・不安定化。貧富の差の拡大と固定化。外資による日本企業買い(悪夢の三角合併!)・・・。

いままさに日本はネオリベラリズムによって食い尽くされようとしている。これが我々の目の前で堂々と行なわれている「経済侵略」の実態なのです。では、どうしたらいいか? 正直に言ってボンクラ者の私(喜八)にはまだ分かりません。日本国民の将来を憂える「憂国」の志のある方は、ぜひとも『悪夢のサイクル』に目を通してみてください。きっと「救国」のヒントがたくさん見つかるだろうと思います。


(『悪夢のサイクル』内橋克人、文藝春秋、2006)


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投稿者 kihachin : 2007年04月14日 08:08

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