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2008年04月21日

古典の力(1)

紫式部


先ごろ、瀬戸内寂聴さん(僧侶・作家)が「源氏物語は日本の文化遺産の最たるものなので一人でも多くの日本人に読んでほしい」と呼びかけられました。以下、「東京新聞」2008年04月12日朝刊記事からの一部引用です。

 もし、まだ一度も源氏物語を読んでいないとすればそれは恥だ。千年も前に、世界中の誰も書いていない長編恋愛小説を書いた女がいた。それは日本の誇りだ。世界中のインテリが源氏物語に感動しているのに、日本人のわれわれが分からないと言えようか。
 今の日本は政治から何から自信を失っている。わたしの生涯でも最も悪い時期だと思う。わたしたちは死んでいく世代だが、若い人が誇りを持てるよう、次世代に文化をつないでいかなければ。
 そのためにはまず源氏物語を読むこと。最も良いのは声に出して読むことだ。原文を声に出して読むと分かる。きれいな声の人が録音したものもたくさん出ているので、どうか一人でも多く触れてほしい。わたしからのお願いです。


瀬戸内寂聴さんから「お願い」されたのでは、否も応もありませんね(笑)。早速、瀬戸内寂聴さんによる現代語訳版『源氏物語』(講談社、全10巻)を読み始めました。

昨日、第5巻を読み終えたところですが、この先を読むのが待ち遠しいような、読み急ぐのは惜しいような・・・。というわけで、できるだけゆっくりと時間をかけて読み進めていこうと思っています。

じつは現代語訳で『源氏物語』に挑戦するのは今回が初めてではありません。20年ほど前、中央公論社版『谷崎潤一郎全集』(全三十巻)の小説の部を通読したことがあり、その際「勢い」で「谷崎源氏」もちょっとだけ齧《かじ》ったことがあります。

でも、このときは何故かほとんど読み進めることができませんでした。最初の帖「桐壺」ですら読了することができなかったのです。それなのに今回の「寂聴源氏」はすらすらと読むことができるのは何故でしょう?

思い起こせば「谷崎源氏」を読むことができなかったのは、どこか大きな違和感を覚えたからでした。その理由を「後付け」で考えてみますと、谷崎潤一郎は本質的に「男性文学」作家であるということが挙げられそうです。谷崎には『細雪』『春琴抄』『痴人の愛』のような女性を描いた大傑作が多いのですが、谷崎自身はきわめて「男性的」な作家であったと思うのです。

『源氏物語』は紫式部という女性により描かれた女性群像でありますから、谷崎よりは瀬戸内寂聴さんによる現代語訳のほうがしっくり来るのは当然といえば当然かもしれません。さらには瀬戸内寂聴さんが「出家」されていることも『源氏』現代語訳者としては大きなアドバンテージになるでしょう。『源氏物語』のヒロインたちは、光源氏との儚《はかな》くも苦しい恋から逃れるため次々と出家していくからです。

現在のいつもニコニコした尼僧姿の瀬戸内寂聴さんしか知らない若い人も増えてきたと思います。しかし、瀬戸内寂聴さんがかつて「瀬戸内晴美」であったころは大変な「恋多き女」として勇名を轟《とどろ》かせていたのです。単に「恋多き」だけでなく、全身全霊で恋をする女性でした。奔放な恋愛遍歴。火の玉のように激しい気性の人。凄い収入を惜しげもなく恋愛・お洒落などで消費する大流行作家。そんな破天荒な人が「瀬戸内晴美」さんだったのです。

この激しすぎる知性と気性を放置するなら、自分(瀬戸内)は周囲の人たちを巻き添えにして破滅していくだろう。愛欲煩悩を断ち切るため、愛する人たちと自らを救うため、瀬戸内晴美さんは出家したのだと私(喜八)は勝手に想像しています。ちなみに『源氏物語』でも光源氏のかかわった女たちの七割は出家しています。「瀬戸内晴美・瀬戸内寂聴」さんはあたかも『源氏物語』登場人物のひとりのような女性、というのが私の感想です。

ところで瀬戸内寂聴さんの『源氏物語』に関するエッセイなどを拝見すると、『源氏』に登場する多くの女性の中で寂聴さんの一番のお気に入りは「六条の御息所《ろくじょうのみやすどころ》」だということが判明しました。じつは私(喜八)も(まだ途中までしか読んでいませんが)「六条の御息所」に一番心惹かれます。「やっぱり、恋をするならこういう女性がいいなあ」と思います(なんという高望み! 笑)。とはいえ、これはいささか変わっている嗜好かもしれません。瀬戸内寂聴さんによると、男性読者に圧倒的に人気があるのが「夕顔」だそうです。私は「夕顔」の君にはまったく魅力を覚えません・・・。

そのほか、瀬戸内寂聴さんは「末摘花」「花散里」「空蝉」「近江の君」に強い同情を寄せられています。この辺りの感覚を私も共有します。光源氏という人ははっきり言って「どうしょうもない」不良でありプレイボーイだと思うけれど、「末摘花」「花散里」「空蝉」の女君たちが生活に困らないように最後まで面倒を見るところは感心させられます。

男性登場人物では「朱雀帝」に妙に心惹かれます。激しい気性の両親(特に母親)に頭が上がらず、異母弟の光源氏には強いコンプレックスがあり、心優しいけれど優柔不断な朱雀帝。寵愛深き「朧月夜《おぼろづくよ》」の君が光源氏と怪しい関係にあっても、あえて許してしまう朱雀帝がなんとなく好きです。瀬戸内寂聴さんは「朧月夜」を贔屓にされているようですが、私は「朧月夜」さんにはそれほどの魅力は感じません。この辺に「女性の目」と「男性の目」の違いがでているのかもしれませんね。

いやはや、それにしても『源氏物語』は素晴らしい! 瀬戸内寂聴さんが言われるように「まだ一度も源氏物語を読んでいないとすればそれは恥」でしょう。『源氏物語』は「日本の誇り」であり、「世界中のインテリが源氏物語に感動しているのに、日本人のわれわれが分からないと言え」ない大傑作であります。こんな大傑作を生まれてから50年近く読むことがなかったボンクラの私も、瀬戸内寂聴さんのおかげで「寂聴源氏」に接することができました。瀬戸内寂聴先生には心からのお礼を申し上げなければなりません。

さらに寂聴さんの言葉をお借りしますと、「今の日本は政治から何から自信を失ってい」ます。そんな「最も悪い時期」にある祖国ですが、これは私たち「いま生きている者たち」がどうにかしなければならないでしょう。愚痴をこぼしているだけではしょうがない。何とかかんとか「ブレークスルー」を図らなければいけません。「そのためにはまず源氏物語を読むこと」。この瀬戸内寂聴さんのお言葉を「古典を読み『古典の力』を我が物にすることによって、自らの中にある『善き力』を見出すこと」と私は拡大解釈します。

特に男性にとって『源氏物語』は重要ではないかと思います。私自身は『源氏』を読むことで、視野が大きく広がったような思いをしています。「いままで見えてなかったものが、視界に入ってきた!」という感じです。『古事記』『神皇正統記』『太平記』も、もちろん素晴らしい日本の古典であり必読の書でしょうけれど、『源氏物語』を忘れてはなりませんよ! と、たとえば男性ホルモン過剰の(ように見える)佐藤優さん(起訴休職外務事務官・作家)あたりにはお勧めしたいですね(笑)。


余談です

谷崎潤一郎はたしかに「文豪」には違いありませんが、有名ならざる作品群を読んでみると、また違ったイメージを抱きます。谷崎には「エログロナンセンス」「ゲテモノ」と形容するのがぴったりな短・中編も少なくないのです。まるで「スプラッタ・ホラー」というようなものもあります。谷崎は自分のことをしきりに「マゾヒスト」と称し、「芸術家」であることを誇ります。なかなか愛嬌のある方であったようです。私(喜八)が感銘を受けた谷崎潤一郎作品を以下に書き出してみます。

  • 『細雪』
  • 『春琴抄』
  • 『痴人の愛』
  • 『少将滋幹の母』
  • 『恐怖時代』
  • 松子夫人へのラブレター

まだまだ沢山あるはずですが、俄かには思い出せません。そのうち調べてみましょう・・・。

(「古典の力(2)」に続く)


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投稿者 kihachin : 2008年04月21日 20:14

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