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2008年06月27日

内田樹さんの「議論」論

『身体知』内田樹・三砂ちづる
身体知』内田樹・三砂ちづる


内田樹さん(思想家・武術家)の「論争・議論」論が非常に興味深く、きわめて実効的だと思いました。「論争(議論)は勝って益なし、負けて益なし。何言われても、相手にしないで聞き流す。逃げる」。これが内田流兵法の奥義《おうぎ》でしょうか()。

※「戦わない・無視する・受け流す・逃げる」は《現実主義的》兵法における最も重要な戦術である。と、ナマクラ流ヘタレ派兵法者・喜八は考えとります

内田樹さんと三砂ちづるさん(疫学者)の対談本『身体知』バジリコ(2006)から、内田発言の一部を引用させていただきます。


★引用開始★

内田 論争って、勝てば恨みを買うし、負ければ気分がわるい。どっちに転んでもいいことがない。学校の教授会で議論をしていて、いつもそう思いますね。むかしものの弾みできつい言葉で批判してしまったことがあるんですけど、その時は論争レベルでは相手を黙らせたわけですけれど、結果的には、それが尾をひいて、五年経っても、一〇年経っても、何かあるたびにその人がその時のことを恨んでぼくの足をひっぱる。そのせいで、いろいろなプログラムが停まったり、根回しによけいな手間暇をかけなくちゃいけなくなった。だから、トータルでは大損しているんです。目先の論争に勝っても、結局いいことなんか何もないです。
 ぼくは本を出しているせいで、ときどきデリケートな問題について論争を挑まれることがあるのですが、全部逃げてるんです。勝って益なし、負けて益なしだから。何言われても、相手にしないで聞き流すのがいちばんです(『身体知』48頁)。


内田 ほとんどのことって、まわりの人の同意や支持がないと実現できないことじゃないですか。議論してやりこめたって、それで計画の実現が早まるということはあまりないというか、ほとんどない。
 一時期「ディベート教育」を日本の学校でも導入したらという議論がありましたね。ナンセンスだと思うんですよ。二つのチームに分けて賛成、反対で議論しあうなんて。現場でいちばん大切なのは、相手をやりこめることではなくて、いかにして和解しがたい対立を合意形成にもっていくかじゃないですか。たいせつなのは「論破」することじゃなくて、「説得」することでしょう。ディベートと合意形成の訓練とは全然違う。ディベートは、むしろ対立点を明示化する訓練でしょう。そんな訓練を積んでも現実社会では何の益もない。「口の減らない厭なやつだ」と思われるだけで。もともと、合意形成の技術は日本の伝統なんだから、伝統はたいせつに受け継ぎましょうよ(『身体知』49-50頁)。


内田 ヨーロッパ的なディベート文化というか、対立をいとわない文化の根には「真理は必ず普遍化する」、「正しい主張はいつかは必ず全員に受けいれられる」抜きがたい真理信仰があると思うんです。でも、ぼくたちはなかなかそういうふうには考えることができない。むしろ、ぼくが前提にしているのは、邪悪なやつは邪悪なままで、矯正のしようがないとあきらめることです。邪悪な人間を正道に戻すというよりは、邪悪なものが及ぼす被害をどうやって最小化するか、そちらのほうにリソースを集中したい。なんだか性悪説みたいですけれど、この非西欧的なリアリズムの根本には「他者は不可知だ」という断念があると思うんです。
 逆に思われているようですけれど、本当のことを言うと、ヨーロッパ的な個人主義というのは、ぎりぎりのところでは「人間は真理の審級において最終的に合意に達する」という絶対的な真理についての信憑に基づいていると思うんですよ。そうでなければ、あれほど激しく他人を攻撃できないと思う。
 でも、日本人は、人間は腹の底では何を考えているかわからないという恐怖感に基づいて社会を作っている。わからないからこわい、こわいから「本音」はできたら聞かずにすませたい。表面的な「建前」と「あれをなにして」みたいな曖昧な表現でごまかして。ぼくはむしろ日本的なそういう合意形成戦略のほうに人間の本質的な不可知性に対する「恐怖」と「敬意」を見てしまうんです。「他者とは何か?」と正面切って論じられる文化と、「他者とか、そういう話はなしにして、ま、お茶でも……」という逃げの文化では、どう見てもあとのほうが他者の他者性に対する敬意とはいわないまでも畏怖の感覚は備わっているんじゃないか、と。そんなふうに思うんです(『身体知』50-51頁)。

★引用終了★


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投稿者 kihachin : 2008年06月27日 12:15

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