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2008年12月16日

杉浦日向子さんと忠臣蔵

『ゑひもせす』杉浦日向子
ゑひもせす』杉浦日向子

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ふと、杉浦日向子さん(1958-2005、漫画家・歴史考証家)のことを思い出しました。
先週末、東京豊洲の「平木浮世絵美術館(UKIYO-e TOKYO)」で「忠臣蔵筆くらべ」(2008年12月02日~25日)という展示会を観ていたときのことです。
「そういえば、日向子さんは『忠臣蔵』嫌いを公言されていたなあ」と。

なんて書き出すと、いかにも私(喜八)が杉浦日向子さんと親しかったように誤解される方もいらっしゃるかもしれませんね(いないか。笑)。
残念ながら、杉浦日向子さんと個人的な面識はありませんでした。
ただ、杉浦さんのご本を愛読していたのと、何回か講演会でお話を聞いたことがあるだけです。

1990年10月13日の夜、東京都主催のイベント「第2期江戸東京自由大学」の一講座「映画に描かれた江戸 『血煙高田馬場』」の講師が杉浦日向子さんでした。
会場は港区白金台の東京都迎賓館(当時)で、現在は東京都庭園美術館となっています。
昔も今も私はかなりの「杉浦日向子ファン」ですので(「喜八ログ」ではこのパターンが多いですね)、迷うことなく、この講座(有料)を受講しました。
マキノ雅広監督・阪東妻三郎主演の無声映画『血煙高田馬場』(1937)を上映した後に、杉浦日向子さんと四方田犬彦さん(当時明治学院助教授《映画史》)のトークという趣向でした。
モノクロ無声の映画は、現代の眼で観てみると、それほど面白いものではなかったのですが、杉浦日向子さんと四方田犬彦さんのお話は楽しいものでした。
ここで杉浦日向子さんが『忠臣蔵』に言及したのです。
いわでもながの解説をしておきますと、映画『血煙高田馬場』は実際にあった高田馬場の決闘を基にしていて、主人公・堀部安兵衛(武庸)は後の「四十七士」の1人だからです。

杉浦日向子さんという人は写真を見ても分かるように、「不二家のペコちゃん」のような容貌で、一見ほんわかとした雰囲気なのですが、その文章を読めば明らかなように、結構辛辣なところも併せ持った方でした(そういうところが好きでした)。
そのとき、杉浦さんはちょっと意地悪そうな顔になって、「私は『忠臣蔵』は嫌いです」とはっきり発言されました。
(この辺りは記憶だけで書いているので、細かいところは間違えているかもしれません)
だいたい大の男が46人もゾロゾロ連れだって討ち入りするなんて鬱陶《うっとう》しいじゃないですか
せいぜい数人で斬り込むのならともかく
このような発言もされたと思います。
ちなみに上の「46人」は「47人」の間違いではありません。
杉浦日向子さんは「寺坂吉右衛門事前逃亡」説をとられていましたから。

杉浦日向子さんには赤穂浪士による「討ち入り」がいかに一方的な殺戮であったかを描く漫画作品「吉良供養(上・下)」もあります。
これは四半世紀前の1983年に刊行された『ゑひもせす』という作品集に収められており、いまでも版を重ねています(ちくま文庫版もあります)。
及ばずながら杉浦日向子作「吉良供養」をここで紹介してみましょう。
吉良供養(上)」のタイトルページには「本朝大義考  吉良供養 上  検証・当夜之吉良邸  東都・杉浦日向子考画」とあります(※ スミマセン、一部の旧漢字を現代漢字に改めています)。
そしてページ最上部には「<「忠臣蔵」──殺戮のプロセス!!>」とあります。
ページをめくってみると、次のような文言がページ欄外(右側)に書かれています。

「大義」が殊更物々しく持ち出される時人が多勢死ぬ。
快挙とも義挙ともはた壮挙とも云われる義士の討入はまぎれもない惨事だと思う。ヒナコ

そしてドキュメンタリー風に「忠臣蔵の虐殺」が淡々と描かれていきます。
当夜吉良邸の人数は八十名前後、女はいない」。
そして「討入」による吉良家臣の最終的死傷者は「死亡二十三名負傷十六名」。
吉良家臣の中には山吉新八(近習三十五石・数えで33歳)や牧野春斎(茶坊主・同15歳)のように、不意打ちに抗して力戦した剛の者もいましたが、ほとんどの家臣は一方的に殺されるか、逃げるかしました。

赤穂側に死者のない事でも察しがつくが完全なワンサイドゲームである。
浪士・原惣右衛門によれば「敵対して勝負仕り候者は三、四人許り、残りの者どもは立合に及ばず、通り合わせに捨討」られたという。
大半の者は事態もわからず斬られている。

まさに「殺戮」であり「虐殺」であったわけです。
「吉良供養(下)」は次の言葉で締めくくられています(「追記」は別とします)。

○事後二百八十年、今尚この「大量殺戮」は賞賛され赤穂主従の墓所泉岳寺も大そうな景気だが、片や吉良家の「忠臣」は、その埋骨の地点さえわからない。
曰く
 大義悉くを滅す  と。
                 以テ銘ス可シ穴賢。

杉浦日向子さんの影響を受けたわけではないのですが、私(喜八)も『忠臣蔵』の特に「義士」にはほとんど興味はありません。
杉浦さんのように「嫌い」と言い切る勇気はなく、ただただ「スルー」しているばかりですが・・・。
豊洲の「UKIYO-e TOKYO」で「忠臣蔵筆くらべ」を観たのは、ここや「東京国立博物館」(上野)・「太田記念美術館」(原宿)・「礫川浮世絵美術館」(小石川)には展示が変わるたびに行くことにしているからです。
なんていうと、いかにも「通《つう》」のような気が自分でもしてきそうですが・・・、実際にはごく最近になって始めた「道楽」です。
美術館・博物館で浮世絵の実物を観る。
あまりおカネがかからない、非常に結構な道楽である。
と自分では、かのように思っております。

ところで、杉浦日向子さんに関してはとても残念に思っていることがあります。
上で書いた講演会とは別の折りに、杉浦さんに話しかけるチャンスがあったのです。
某パーティー(懇親会)会場で、人気者の杉浦日向子さんは愛読者・ファンの方々に囲まれていたのですが、一瞬まわりに人がいなくなって、日向子さんがあの「ペコちゃん」のような笑顔を浮かべて1人ポツンと立っていたことがありました。
そのとき、私は「あっ! 話しかける絶好の機会がきた!」と気づいたのですが、結局話しかけることができませんでした。
「いずれまた機会も来るだろう」なんて、弱気の虫がでてしまったのです。
(こういうところが自分でも「本当にダメだ」と思います)
結局、杉浦日向子さんに話しかける機会は二度と訪れず、杉浦さんは2005年7月22日46歳という若さで亡くなってしまいました。
杉浦日向子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

「一期一会。『次』はないと思え、たった『今』行動するのだ!」
とアタマでは分かっていても・・・。
「いざ」というときに身体が動かない。
相変わらず引っ込み思案で弱気なダメ男です(汗)。
この性根はそれこそ「死ぬまで治らない」のかもしれませんねえ。


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付記1:映画『血煙高田馬場』

講座「映画に描かれた江戸 『血煙高田馬場』」で、歴史考証家・杉浦日向子さんは映画『血煙高田馬場』に関して、「武士(堀部安兵衛)が六尺ふんどしを締めているのはおかしい」「江戸の話のはずなのに障子が上方風」といった指摘をされていたと記憶しています。


付記2:歌川国芳の版画

「ものはついで」ということで「平木浮世絵美術館(UKIYO-e TOKYO)」の「忠臣蔵筆くらべ」で観た歌川(一勇斎)国芳作品名をメモしておきます。

  • 忠臣蔵夜討之図 天保(1830-44)前期
  • 忠臣蔵十一段目両国橋勢揃図 文政(1813-30)後期


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投稿者 kihachin : 2008年12月16日 12:00

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