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2009年06月03日

「恋じゃなくて、愛」

愛の猫
(猫画像は「EyesPic」さんよりお借りしました)


小倉千加子さん(心理学者)と中村うさぎさん(作家)の対談『「生き難さ」──この“ヒリヒリ”した感覚!』(「世界」2005年12月号)から、特に印象的だった一節を引用させていただきます。

エントリ後半は姫野カオルコさん(小説家)の話題に転じます。


それでは「小倉千加子×中村うさぎ」対談から。
引用文中、《 》ではさまれた部分は喜八による補足です。


★引用開始★

小倉 家族の定義によりますが、私《小倉千加子》にとっての家族とは、お正月の元旦の正午に一緒にいる人ですね。

中村 私《中村うさぎ》は看病してくれる人。自分で起きあがれなくなっても、うんこの世話までしてくれる親友やパートナーが一緒にいてくれるといいなと思う。電話して動けないんだと言ったら、もちろん断らないで来てくれる友達はいるけど、こっちも気兼ねしちゃう。もうちょっと気兼ねなく「助けて」と言える相手が私にとっては家族。

小倉 でも、結婚している人、すなわち従来の定義で言うと家族を持っている人も、六〇歳くらいになると家族を求めるんです。つまり既成の家族は当てにならないってことです。

中村 家族として機能していないということですね。その人にとってのいまの家族はどんな家族なんですか。

小倉 自分がギックリ腰になっても夫はゴルフに行くし、娘は枕元にあんパン一個置いて会社に行く。誰も自分に関心がない。そういう人はたくさんいますよ。

中村 じゃあ、家族の機能って何?

小倉 相互扶助でしょうか。経済的・精神的相互扶助、つまり最小単位の社会福祉。

中村 うん。それこそ、気兼ねなく「助けて」と言える相手ですよね。そうか、現代に必要とされてる「家族」って、遭難しそうな自分を助けてくれる他者なんだ。私たちの「生き難さ」って、結局、「私は遭難しそう。助けて」って気持ちだもん。

小倉 究極的には「看取る人」が家族とも言えますね。

中村 うん。たとえば明日死ぬとなったときに誰と一緒か。私はやっぱり今の夫に枕元に来てもらって、「今までごめんね」とか「ありがとう」と言って死にたいなあ。

小倉 地球が明日消滅するという最後の一日を誰と過ごすか。それが家族。

中村 そう。そしてそれが愛だと私は思うわけです。

小倉 恋じゃなくて。

★引用終了★


この「小倉千加子×中村うさぎ」対談(「世界」2005年12月号)のことは、佐藤優さん(神学者・作家)の『インテリジェンス人間論』新潮社(2007)で知りました(同書216頁)。
さっそく掲載誌「世界」2005年12月号を図書館で借り出して来て読んでみたら、上のやりとりに非常に心打たれたわけです。
それはもう半年も前のことで、コピー紙もずっとカバンの中に入れっぱなしだったのですが・・・。
どうにもノラクラ者のせいで、いまようやく紹介しているわけです(汗)。

引用文末尾のやり取りがいいですね。
もう一度、貼り付けます。

小倉 地球が明日消滅するという最後の一日を誰と過ごすか。それが家族。

中村 そう。そしてそれが愛だと私は思うわけです。

小倉 恋じゃなくて。

小倉千加子さん発言の「地球が明日消滅するという最後の一日を誰と過ごすか」という部分は、米国の有名SF作家ロバート・A・ハインラインの名作短編「大当たりの年」の影響があるかもしれない、と思いました。
もし小倉千加子さんにお目にかかる機会があったら(ありそうな気がしますが)、ご本人に確認してみたいところです。


「恋」と「愛」。
ここで、話題は私(喜八)が敬愛する姫野カオルコさん(文豪)の長編小説へと変わります。

姫野カオルコさんの代表的な2本の長編小説。
ツ、イ、ラ、ク』(角川文庫)は男女のあいだの「恋」を描いている。
ハルカ・エイティ』(文春文庫)は男女のあいだの「愛」を描いている。
のだと、つねづね思っています。
以下は「姫野カオルコ公式サイト」内の著作紹介ページです。

姫野カオルコ 著作一覧と作品概要、版元など(小説)

もしかしたら、あえて比べるなら、『ツ、イ、ラ、ク』のほうが力作かもしれません。
が、個人的には『ハルカ・エイティ』が好みです。
それは今の自分が年齢的にも「恋」より「愛」を欲している、ということなのではないかと思っています。
(ただし『ツ、イ、ラ、ク』も凄い凄い小説です)

『ハルカ・エイティ』に主人公ハルカの義父母として登場するミヤ左エ門夫婦のような「関係性」「歴史」を自分も築きたいものだ、と思っています。
もしかしたら、姫野カオルコさんもミヤ・左エ門の2人を『ハルカ・エイティ』の真の主人公に設定しているのかもしれない。
特に描きたかったのは文春文庫版117-118頁のハルカ(嫁)と左エ門(舅)のやり取りではなかろうか?
なんて「妄想」もたくましくしています。

以下は『ハルカ・エイティ』からの引用。
1942年(昭和17年)という設定、ハルカの夫・大介は帝国陸軍将校として中国大陸に出征中、その間の大介の父・左エ門と嫁のハルカの会話です。
《 》の部分は喜八による補足です。

 舅《左エ門》はうなずき、不意に話題を変えて姑《ミヤ》のことを訊いてきた。
「あんな、ミヤのことやけど……」
 すこし躊躇《ためら》ってからつづける。
「わしは日中はいっつも家におらんけんど、なんか困ったことはないか?」
 訊かれ、ハルカはたちどころに手をふった。
「なんにも。なんにもあらしまへん。うちのほうが困ったことを、いっつもお義母さんに助けてもろてます」
 ハルカは畳にでこをすりつけた。
「もったいないほどようしてもろて、ほんまにほんまにありがたいことや思《お》もてます」
 本心である。
「さよか……。さよか……、ならよかった」
 ハルカと向かいあっていた左エ門は、夕暮れてゆく庭のほうに、いくぶん身体の向きを変えた。ハルカに顔を見られるのを避けるように。
「ミヤはなあ、わしが言うのもなんやけど、やさしやさしおなごやねん」
 ミヤは左エ門のまたいとこであるが、格下の分家の子であったので、左エ門の祖母は下女のように彼女を使った。
「婆さんからは、そらきついことを言われてばっかりの毎日やったのに、よう辛抱《しんぼ》してくれよったわ」

ミヤはなあ、わしが言うのもなんやけど、やさしやさしおなごやねん」は、おそらくあらゆる日本小説の中でも「白眉」といえる男性の愛の言葉に違いない。
と私は確信しています。
できることなら、自分も一度くらいはこういう「男らしい」台詞《せりふ》を口にしてみたい(「男らしい」は文春文庫『ハルカ・エイティ』179-180頁から)。
とはいえ、いまのところ、まったくアテはありませんが・・・。
焦っているわけでもありません(笑)。
そのほかにも、『ハルカ・エイティ』は読み終わった後にも、あれこれ考えさせられてしまう小説です。


なにはともあれ。

ツ、イ、ラ、ク』と『ハルカ・エイティ』。

これらは掛け値なしの大傑作です!
「恋」と「愛」に強い興味があるという方は、ぜひ『ツ、イ、ラ、ク』と『ハルカ・エイティ』を手にとって読んでみてくださいね。

というわけで、今回は「らしくない」エントリでした。
お後がよろしいようで・・・。


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(※上の猫画像は「ImageChef イメージクリエーター」で製作しました)


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投稿者 kihachin : 2009年06月03日 08:00

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