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2009年12月19日

栗田隆子『派遣労働問題における「重い」一日』

青山薫・稲葉剛(中央)・栗田隆子
栗田隆子さん(手前)と稲葉剛さん(2009年11月01日、PP研シンポジウム)


栗田隆子《くりた・りゅうこ》さん(作家・「女性と貧困ネットワーク」「フリーターズフリー」)が「mixi」に書いた文章『派遣労働問題における「重い」一日』を全文転載させていただきます。


★転載開始★

下記の文章は「栗田隆子」が書いたものと記載してもらえれば、全文転載いただいてかまいません。紹介いただく場合は全文のほうがありがたいです。あくまで栗田個人の文責です。

2009年12月18日(金)、多分この日は、今後の派遣労働という問題、そしてそこに関わる人間にとって「重い」一日として残されるだろう。その「重さ」を歓迎する人間と、嫌悪する人間とに別れる意味でも「重い」一日となるはずだ。

この日は実は派遣に関する三つの大きな動きがあった。
一つ。それは日本経済新聞に載った長妻厚労相のインタビュー記事である。
来年の通常国会への提出を目指す労働者派遣法改正案について、「激変緩和ということもある」、と延べ、法案成立後、施工までに三年程度の経過期間をおく方針を示唆した、というのだ。これではまた「景気がよくなった」ら放棄するということをやりかねないし、三年も待ってられないよ、という人がどれだけいることか。この「三年」というのは実に不気味な数字である。
二つ目は、派遣法審議会が厚労省で行われた。それは今後の派遣法改正に当たっての公益側、使用者側、労働者側の三者で行われる審議会である。
しかし、審議会では不安定雇用を生む一時的な「登録型の廃止」がうたわれるものの「二十六業種」「介護労働」等は、最初から対象外であることが謳われた。
あくまで「製造業」主眼の廃止である。
これでは、「エクセル」のひとつでもつかっていれば「事務職」としてみなされて、派遣に流し込まれる「期間工」が山ほど増えるんじゃないかという危惧を私は感じる。または、結局「請負」や「個人事業主」的な逃げ道を作ることが予想される方向での派遣法改正の審議が現在なされているのである。
この審議会。傍聴は誰でも可能である。時間のある人は、ぜひこれを見に行くことをお勧めする(たいていの仕事しているひとは無理なんだけど。でも派遣会社側はいっぱい来ている。彼らは仕事でこういうことができるってのが大きい違いだよね)。
さて、あともうひとつ、こちらはヤフーでもトップ級で扱われている裁判である。

パナソニック子会社の雇用義務認めず=解雇男性が逆転敗訴-偽装請負訴訟・最高裁
 パナソニック子会社の工場で働いていた元請負会社社員の男性が、「偽装請負」を内部告発した後に不当解雇されたとして、直接雇用の確認などを求めた訴訟の上告審判決が18日、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)であった。同小法廷は、訴えをほぼ認めた二審大阪高裁判決の一部を破棄し、同社の雇用義務を認めず、直接雇用や未払い賃金支払いの訴えを退けた。男性側の実質的逆転敗訴が確定した。
(時事通信) http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/matsushita/

この傍聴に聞きに行こうとしたが、傍聴希望者多数につき、抽選。4人一緒にいた仲間のうち一人だけが当たり、抽選漏れの私達は外で、支援者達の演奏する沖縄のエイサー風の音楽などを聞きながら(音楽がこれほどありがたいものとは!)ふきっさらしの寒風に立っていた。
私自身は最高裁判所というところに立つのは初めてである。ギリシア神殿みたいなものものしい建物である。そんな建物の中からそれこそ例の筆書きで書かれた「勝訴!!」なんて文字も見てみたい、などというミーハーな気持ちも多分にあった。

待つ事30分以上、ぞろぞろと傍聴人たちが出てきた。抽選に当たった傍聴人のYさんに話をきくと「第一と、第三を棄却する・・とかむにゃむにゃいっているのよ」
「??」
そしてたまたま側にいた傍聴に参加したと思しき雨宮処凛さんにも思わずずうずうしく聞いてしまった。
「どうでした?」
「それが第一を棄却すると言うのだけれど、第一というのが何だかさっぱりわからなくて」
そのあと出てきたのが
「不当判決。損害賠償を認める」(と読めた)。
そのあと、しばらくして弁護団からの報告がなされた。
「主文第一、第三というのは、要するに彼の労働契約上の復元を求めるということ。それから彼の賃金請求権・それから元の職場で労働を行う権利、(使用者責任を問う)労働地位確認の部分が破棄をし、裁判所としてこの請求について終局的な判断をくだしたということです。
そのうえでわたしたちがもとめていた不法行為の損害賠償。ひとつは吉岡さんが、直接雇用になった後にリペア作業と言う他の従業員から切り離されて、一人ではけ口で作業されるというその部分については、一審からふくめて損害賠償を認めているし、さらに大阪高等裁判所では、直接雇用した後に2006年1月31日に雇い止めをした行為については全体としてみたときにその不法行為を認めている。大阪高裁の損害賠償の認容したところはそのまま認容をする。簡単にいうと、『労働の位置確認については棄却、リペア作業、および雇い止めを起こしたことについては、損害賠償請求を認める』と。
裁判官側の補足意見がありまして、雇い止めの不法行為の根拠付けとしては、吉岡さんが偽装請負を告発し、大阪労働局に申告し、直接雇用を請けたという一連の行為についての(松下側の)報復的な部分があることは損害賠償の根拠足りうるという、捕捉意見がなされました・・・。
しかし、私達が最も求めていた労働契約上の雇用主としての使用者責任は認めない、という点では不当判決であります。
しかし雇い止めは(使用者側の)あくまで契約上(の行為)だという判断をする一方で、雇い止め行為そのものに(使用者側の)報復的意図、違法の申告をしたことを評価するという、結論だけをみるとやや矛盾した内容になっていると感じましたが、この事件の最大の眼目は、一労働者を使用し、労務提供を受けていたということを、きちっととらえてそれに見合う雇用責任を認容するという、この点につきましては最高裁は沈黙をしたということになります。この矛盾において、労働者の申告にたいする企業の責任は認めざるを得なかったというかたちで今後それを見据えた上で全面的な支援をしてゆきたいと思っています。」
 確かにこれは、傍聴席にいても「きょとん」となるだろう。
 しかし要するに「酷い行為をしたその「酷い」ことは認めるが、企業は「酷い」ことをしてもいい。なぜなら「企業」だから」ということなのか?
 「企業責任」を負えない、「酷い行為」を改めるのではなく「お金」を払っておわり、ということなのだろうか。
 「企業」は「酷い行為」をするところ、そういう「酷さ」に対して裁判所は「沈黙」したということなのか?
 しかし、しかし、私はこの裁判を単純な「負け」とも言いたくないのだ。
それは、原告の勇気こそが、裁判所のヘンな「矛盾」を生み出したからだ。弁護団の「労働者の申告にたいする企業の責任は認めざるを得なかったというかたちで今後それを見据えた上で全面的な支援」と語るなかでのこの「申告」の重みはやはりある、ということを伝えなければ、と。その「重み」が希望につながるように伝えなければ、と。
この判決は、鳩山政権に変わったということも影響しているのかもしれない。確かにこれが「賠償」も出ないのだとしたら、結局政権が変わっても何にも変わらなかったという思いを生み出しかねない。「賠償」という判決は「ガス抜き」という見方も出来るだろう。しかし、そこからが「一歩」とも考えられるかもしれない、というか私達こそがそれを、彼にやらせてきた「何か」を私達の一歩としていかなければ、私達がこの「原告」を見捨てることになってしまうのだ・・・ほんとうに。
私は、原告、と言う呼び方がちょっといやだな、と思う程度に私はその方の知り合いと思っている。とはいえ、向こうは多分私のことを知らないと思うのだけれど・・・彼は今年の八月、暑い東京で行ったオンナ・ハケンの乱(デモ)にも来て、一緒に道を歩いてくれた。そんないきさつもあり私自身はこの報告を「中立」に出来る立場ではない。
だからこそ物静かな彼が、最高裁に向かって「最高裁、どんな判決をくだしたのか、意味が分かっているのか?」と叫んだとき、この叫びをつたなくても書かなければと思った。
拙いからこそ出来る報告がある、と思って今日はこれを書かせてもらった。

読んでくれて、ありがとうございました。
栗田隆子
**

★転載終了★


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投稿者 kihachin : 2009年12月19日 08:00

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