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2011年07月16日

綾屋紗月+熊谷晋一郎『つながりの作法』

『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』NHK出版生活人新書(2010)
つながりの作法』綾屋紗月+熊谷晋一郎


綾屋紗月さん+熊谷晋一郎さんの『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』NHK出版生活人新書(2010.12)を紹介します。
フツーの書籍紹介というよりは『つながりの作法』読解のヒント提供を試みたいと思います。
ヒントは以下の3点です。

  1. 『つながりの作法』195ページで綾屋紗月さんが「アイツ」と書いたのは誰のことか?
  2. 熊谷晋一郎さんは自分の文体が嫌い!
  3. 『つながりの作法』執筆過程で、綾屋さんと熊谷さんの意見が真っ向から対立した部分があった!

綾屋紗月(あやや・さつき)
一九七四年生まれ。二〇〇六年アスペルガー症候群の診断名をもらう。東京大学先端科学技術研究センター研究者支援員。著書に『発達障害当事者研究』(共著、医学書院)、『前略、離婚を決めました』(理論社)。
熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう)
一九七七年生まれ。脳性まひの電動いすユーザー。小児科医、東京大学先端科学技術研究センター特任講師。著書に『発達障害当事者研究』(共著、医学書院)、『リハビリの夜』(医学書院、新潮ドキュメント賞受賞)。


最初に『つながりの作法』の「はじめに」から引用させていただきます。

 この本はマイノリティ(少数派)である私たち、綾屋と熊谷の、それぞれの身体のつながりの特徴からスタートする。そこからマイノリティのコミュニティにおけるつながりの問題点を経由し、最後にコミュニティの「つながりの作法」として、「当事者研究」の可能性について考察していく。

第一章・第二章で綾屋紗月さん(アスペルガー症候群当事者)の「つながらない身体」と熊谷晋一郎さん(脳性まひ当事者)の「つながりすぎる身体」が比較されつつ述べられます。
第三章では《マイノリティの多くが抱える「同質な仲間による密室的な息苦しさからも解放されたいし、分断された誰ともつながらない個にも戻りたくない」という行き詰まり》が考察されます。
そして第四章「当事者研究の可能性」・第五章「つながりの作法」。本書の中核部分です。「つながりの作法」とは個々人の「違いを認めた上でなお、つながる作法」のことです。
第六章は綾屋紗月さんによる弱さの自己開示。「アイツ」への複雑な思いと自身の中にある強固な不安が語られます。
そしては最後は熊谷晋一郎さんによる「あとがきにかえて」で見事に締められます。


と、紹介はざっと済ませまして…読解のヒントに移ります。

1.『つながりの作法』第六章(195頁)で綾屋紗月さんが「アイツ」と書いのは誰のことか?

「どうやらアイツがうまくいったらしい」という噂が流れ始めた時から、血の気が引き、胸がざわつく。数日のうちに噂が本当になったら、私は周りがあきれるほど「チクショー! うらやまし~! なんでアイツが!」と嫉妬で狂ったり酔って暴れたりして、周囲に迷惑をかけたりしないだろうか。私の心身は耐えられるのだろうか。

一読すると、いささか不穏な印象ですね。
じつはこの辺のところは、綾屋さんがTwitterで数回にわたって思いを吐露されていたので、リアル中継的にそれらを読ませていただきました。
ただし、その時点では「アイツ」が誰かは分かりませんでしたが…。
『つながりの作法』を一読したら、即座に分かりました。
ああ、熊谷晋一郎さんのことだったのだ」と。
これについては『つながりの作法』に接したほとんどの読者が普通に分かるものと思っていましたが…。
『つながりの作法』を読んだ知人の何人かにお聞きしたところ、「アイツ=熊谷晋一郎さん」と気づかない人が意外に多かったので、ここで「読解のヒント1」として提出させていただきます。
熊谷晋一郎さんの『リハビリの夜』新潮ドキュメント賞受賞が決定した前後の時期、綾屋紗月さんは《「嫉妬で狂うのではないか」という恐怖が湧いて湧いてとまらなくな》り、《「誰ともつながっていない私」「生きていても意味がない」「死のう」っていうお決まりのルートが待っている》と感じてしまいます。
その思いをすべて誰かに話すしかない、と経験的にも知識としても綾屋さんは知っている…《だけど、安全な聞き手はいったい誰だ?》。
コミュニティの中に安全な聞き手がいないがゆえに、ぐるぐると終わりのない自責回路が続き…。
という綾屋紗月さんによる第六章は『つながりの作法』の中でも格別に心打たれる部分、と感じた読者も少なくないようです(私もそうでした)。
綾屋さんによる「弱さの開示」が読者に「つながり」を感じさせる契機になったのだろう、と思います。
以上が第1読解ヒント「アイツ=熊谷晋一郎さん」でした。


2.熊谷晋一郎さんは自分の文体が嫌い!

熊谷晋一郎さんは自分の文章・文体が好きではないそうです。
なぜか?
熊谷さん本人による解説を聞いてみましょう。
2011年01月13日、ジュンク堂書店新宿店で行なわれた『つながりの作法』出版記念トークイベントにおける熊谷さんの発言から(要旨)。

自分で書いた文章を後で読むと、絶望的な気分になる。
パソコンを打つ時、自分(熊谷)は(脳性まひという病気の特徴から)身体中こわばって緊張しながら打っているらしい(あるとき綾屋さんが指摘してくれた)。
そうして緊張しながら文字を打つことが「文体」に反映される。
無意識のレベルで「文字を打つ量」を節約がちになり、圧縮された表現・四文字熟語などを使いすぎてしまう。
そのため、非常に分かりにくい、情緒性のない文章を書いてしまいがちになる。
人からは「(熊谷は)アタマの固そうな人」「とりつくしまがなさそう」と誤解されてしまうこともあるようだ。

元発言は次のページで紹介されている動画(48分ごろ~)で聴くことができます。

綾屋紗月×熊谷晋一郎「つながりの作法」刊行記念トークイベント

つながりの作法』を読んだ人の中には「難しかった。特に熊谷さんが執筆された部分が…」という感想を述べる方が若干いらっしゃるのですが…。
熊谷晋一郎さんがパソコンに向かって全身を緊張させながら大変な苦労をされて文章を綴る姿を想像しつつ、『つながりの作法』の文章を読むなら。
あら? 不思議?
とっても分かりやすい平明な文章に感じるではありませんか?!
と、これはあくまでわたし(喜八)の個人的感想ではありますけれど…。
以上、ヒントの2「熊谷さんは自分の文体が嫌い」でした。


3.『つながりの作法』執筆過程で、綾屋さんと熊谷さんの意見が真っ向から対立した部分があった!

これも『綾屋紗月×熊谷晋一郎「つながりの作法」刊行記念トークイベント』の動画から熊谷さんの発言の要旨です(元発言は動画1時間14分ころ~)。

綾屋さんと私(熊谷)でいちばん最後まで折り合いがつかない・つきにくかった部分があります。
そのため第四章「当事者研究の可能性」を書こうとしたとき、どういうふうな書き方をしたらいいか? 筆が止まってしまった。
綾屋さんは「(トップダウンの流れとしての)構成的体制(規範)は必要である」「ばらばらになってしまう身体をつなぎとめてくれる規範が絶対に必要」と主張。
熊谷は「(子どものころから)規範みたいなものに酷い目に遭わされた」という自覚があるため、「(ボトムアップで)そのときに応じて規範を立ち上げればいい」と考える。
この2人の違いをどういうふうに書いたらいいだろう?ということで筆が止まりました。
最終的なわたしたち2人の落としどころは「循環」でした。
「トップダウンの象(かたど)り」と「ボトムアップの構成的体制(規範)の更新作業」が循環し続ける必要がある。
そして循環を止めないためには「当事者研究」という手法がもしかしたら有効なのではないか?と思っています。

つながりの作法』では107ページ以降『自分の成り立ち(1)──「構成的体制」と「個人の日常実践」の相互循環」』が相当します。
この部分をふくめて第四章「当事者研究の可能性」は少なからぬ読者にとってなかなか難しい部分だと思います(わたしにとってはそうでした)。
でも「ああ、綾屋さんと熊谷さんの意見がここで大きく異なり、意見をぶつけあい、話し合いを続けて『つながりの作法』は成立したのだな~」と思って読むと、読解もより深まるのではないかと思うわけであります。
というわけで、ヒント3「綾屋さんと熊谷さんの意見が真っ向から対立!」でした。

以上3つのヒントが『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』読解に少しだけでもお役にたちますなら、望外の喜びであります…。


ayakuma110529s.jpg
綾屋紗月さんと熊谷晋一郎さん(2011年05月29日、都内某所で)


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投稿者 kihachin : 2011年07月16日 12:00

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