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2014年05月10日

映画『ワールド・ウォーZ』と悪魔の弁護人

映画『ワールド・ウォーZ』(マーク・フォースター監督/2013年)と「悪魔の弁護人」についてなど。

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ゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』はマックス・ブルックス(※)の小説『WORLD WAR Z』(2006年)の映画化──ということですが、両者(本と映画)の登場人物・ストーリーはまったくと言っていいほど異なります。

(※マックス・ブルックスはもともとTV構成作家で、父親は映画監督のメル・ブルックス、母親は女優のアン・バンクロフト)


World War Z - Trailer

原作小説『WORLD WAR Z』は世界的なゾンビ戦争を生き残った人々へのインタビュー集成《オーラル・ヒストリー》という形式をとっています。
これはスタッズ・ターケル『よい戦争』の型を借用しているそうです。
対して映画版では、元国連の平和工作員で現在は専業主夫のジェリー・レイン(演ずるのはブラッド・ピット)を中心にストーリーが展開します。

映画『ワールド・ウォーZ』に登場するゾンビは、わたし(中村)が定義するところの「羅刹(らせつ)」タイプです。
小学館『デジタル大辞泉』の解説によると「羅刹」は《(梵)rākṣasaの音写。速疾鬼・可畏と訳す》大力で足が速く、人を食うといわれる悪鬼。のちに仏教に入り、守護神とされた》。
この「羅刹タイプ=走るゾンビ(モンスター)」は以下の映画・小説・漫画作品にも登場します。
近年の「トレンド」なのかもしれませんね。

先にも書いたように、映画『ワールド・ウォーZ』は原作小説とはまったく別のストーリーです。
登場人物もほとんど重なりません。
が、その少ない共通キャラクターに、イスラエル諜報組織の幹部「ユルゲン・ヴァルムブルン」がいます。
ヴァルムブルンはゾンビ発生という危機を速やかに認め、イスラエルが他国に先駆けてゾンビ対策を取ることに貢献した、ということになっています。
映画の主人公ジェリー・レイン(ブラピ)に対してヴァルムブルンが、人々の生死が関わる問題では、諜報機関の分析官9人が「ありえない」とした案件に関しても10人目の分析官は「ありうる」と仮定して徹底的な調査を行なう、という「10th man rule」の解説をします。
これは「悪魔の弁護人」と呼ばれる、イスラエル特有の制度のことでしょう。

1973年の第四次中東戦争(ヨム・キプル戦争)でイスラエル国家は消滅の危機に追い込まれました。
ユダヤ教最大の祝日であるヨム・キプル(贖罪日/しょくざいび)の前、国境近くにアラブ連合軍が集結していたのは分かっていたのですが、このような特別な日に開戦したら凄惨な大宗教戦争になるのが目に見えている。
なので、まさか攻めては来ないだろうという思い込みがあったようです。
くわえて、1967年の第三次中東戦争(6日戦争)で大勝したイスラエルの側に気の緩みもあったのかもしれません。
周囲を敵対国に囲まれたイスラエルは、ただ一度の敗戦が国家消滅に直結します。
そしてイスラエルが崩壊するときは、数百万人の人々が国家と運命を共にする、新たなホロコースト(ショアー)の発生もありえます。
ヨム・キプル戦争の反省から、イスラエルは「悪魔の弁護人」という制度を新たに設置しました。
以下は佐藤優氏(さとう まさる/元外交官・作家)による解説です。

《イスラエルには、「悪魔の弁護人」という制度がある。インテリジェンス分野で大きな業績を残し、現役を退いた専門家数名がイスラエルの首相直属の「悪魔の弁護人」に指名される。イスラエル軍やモサド(諜報特務工作局)が首相に提出した分析や提言に関して、徹底的なあら探しをするのが「悪魔の弁護人」の仕事である。1973年10月の第4次中東戦争で、イスラエル政府はアラブ連合軍が攻撃を仕掛ける可能性はないと判断を誤った。この戦争でイスラエルは勝利したが、一歩間違えれば、国家が消滅する危険があった。この時の経験から「悪魔の弁護人」制度が設けられたのだ。》(【佐藤優の眼光紙背】菅直人首相は、原子力安全委員長経験者たちの緊急建言を国益のために活用せよ

映画『ワールド・ウォーZ』に話を戻します。
この映画で主人公(ブラピ)はアメリカ合衆国→韓国→イスラエル→イギリス→カナダと世界中を飛び回り、そのたびごとに「九死に一生」を得ます。
イスラエル以降は、イスラエル国防軍の女性兵士「セガン」(演じるのはエルサレム市出身の女優ダニエラ・ケルテス)が「旅の仲間」に加わります。
ブラピから「名前は?」と訊かれて、ただ「セガン」とのみ答えるシーンがあります。
それで「セガン」という名前だとわたしは思ったのですが、後になって segen は軍隊の階級であったことが分かりました。
おそらく「中尉」に相当するのだと思います。
この女性兵士キャラクターはかなり重要な役割を与えられています。
映画の副主人公といっていいかもしれません。

原作小説『WORLD WAR Z』では日本人キャラクターも登場します。
長崎への原爆投下を目撃したため視力を失った朝永維持朗(トモナガ・イジロウ)──園芸用シャベルを使い、「座頭市」のような必殺の技で、ゾンビを倒す。
PC おたくで引きこもりの近藤辰巳(コンドウ・タツミ)──ゾンビ大発生の際、自宅高層マンションに取り残されるが、インターネットで得た情報と、たまたま入手した日本刀により生き延びる。
この朝永と近藤が巡りあい、「盾の会」を結成して、日本列島をゾンビから解放する戦いを始める。
なんて、スゴイ話も原作小説では(さわりだけ)語られています。
残念ながら、映画では「日本パート」は割愛されていますが…。

以下は「喜八ログ」のゾンビ映画に関するエントリです。

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投稿者 kihachin : 2014年05月10日 08:00

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