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2014年06月19日

ワシーリー・グロスマン『人生と運命』

旧ソ連の作家ワシーリー・グロスマン(1905-1964)が第二次世界大戦・独ソ戦とユダヤ人虐殺を描いた長編小説『人生と運命』(全3巻)を紹介します。

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ワシーリー・グロスマンの『人生と運命』は──敢えて乱暴に一言でいえば──レフ・トルストイ戦争と平和』のような歴史大河小説です。
第二次世界大戦におけるナチスドイツとソビエト連邦の闘い「独ソ戦」は人類史上最大の犠牲者を出した悲惨なものでした。
兵士・民間人を含めた死者は、一説にはソ連側3000万人・ドイツ側1000万人とも言われます。

ワシーリー・グロスマン『人生と運命』
ワシーリー・グロスマン『人生と運命』みすず書房

アドルフ・ヒトラーのドイツ第三帝国は1939年09月01日にポーランド侵攻を開始し、その後も破竹の進撃を続け、ヨーロッパの大部分を占領。
1941年06月22日に、ドイツは「独ソ不可侵条約」(1939年08月23日締結)を一方的に破棄して、大軍をもってソ連に攻め込みました。
ドイツではこれを「バルバロッサ作戦」と呼び、ソ連は「大祖国戦争」と呼びます。
ナポレオン・ボナパルトのフランスを中心とした同盟軍による侵略(1812年ロシア戦役)はロシアでは「祖国戦争」です。
これに対して、ヒトラーのナチスドイツに抗った闘いを「大祖国戦争」としたのでした。
当時ソ連の独裁者であったヨシフ・スターリンはそれまで国民に「同志諸君」と呼びかけていましたが、独ソ戦が始まると「兄弟姉妹の皆さん」に一変しました。
後者はキリスト教・ロシア正教の神父が教会で信徒に対して使う言い方です。
スターリンは神学校中退という経歴を持っていたので、このような「切り替え」が、国民の心を動かす可能性を直感していたものと思われます。

「独ソ戦=バルバロッサ作戦=大祖国戦争」開始から、ドイツ軍は快進撃を続け、ウクライナを始め広大なソ連の地域を占領し、首都モスクワの目前まで迫ります。
しかし、その後、ソ連側の反攻が生じます。
最も主要な戦場はスターリングラード(現在はヴォルゴグラード)です。
スターリングラードでの闘いが、第二次世界大戦の「転換点」となりました。
独裁者スターリンの名を冠したこの都市で、ドイツ・ソ連両軍は壮絶な市街戦を展開し、最終的にソ連側が勝利。
ここからナチス第三帝国の命運は急坂を転げ落ちるように破滅へと向かっていきました。

実は独ソ戦は日本人とも強いつながりがあります。
1941年当時の大日本帝国は、ドイツとは「日独伊三国同盟」(1940年締結)により結ばれた同盟国でしたし、ソ連とのあいだには「日ソ中立条約」(1941年締結)があり「相互不可侵」ということになっていました(※1945年08月09日、ソ連は一方的に条約を破り日本軍を攻撃)。
昭和の軍部はナチスドイツの対ソ戦当初の「優勢」に幻惑され、真珠湾攻撃(1941年12月12月08日/)という極端な軍事的冒険に踏み切ったと思われます。
「ドイツが欧州とソ連を占領したら、米国は対日戦争を継続することができず、講和に応ずるはず」という甘い期待があったのでしょう。
日本の戦争指導者たちには、「勝ち馬」(となるはずだった)ドイツの側に立ち、「戦後」に利益を得る、と読んでいたようです。
が、真珠湾攻撃の頃には、ドイツ軍はソ連軍の頑強な抵抗に直面し、大苦戦が始まっていたのです。
結果から言えば、日本軍部の「勘の悪さ」は致命的でした。

ワシーリー・グロスマン『人生と運命』は「大祖国戦争」を主にソ連側から描いた大長編小説です。
グロスマン自身が独ソ戦の激戦地スターリングラードにも記者として従軍しています。
小説の膨大な数の登場人物には、ソ連人だけでなく、ヒトラーやドイツ軍人、ユダヤ人なども含まれます。
というより、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)が『人生と運命』の大きな骨子でしょう。
作者グロスマンの母親はソ連邦に暮らすユダヤ人で、占領ドイツ軍により殺害されています。
人生と運命』も母エカテリーナ・サヴェーリエヴナ・グロスマンに捧げられています。
重要な登場人物ヴィクトル・パーヴロヴィチ・シュトルーム(作者グロスマンが投影されている)への母からの手紙(『人生と運命』第一部18章)、および絶滅収容所に送られるユダヤ人ダヴィド(7歳の少年)とソフィヤ・オーシポヴナ・レヴィントン(ロシア軍軍医の女性)の物語は、この大長編小説の最も重要な部分であると、わたし(中村)は読みました。

なお、ソ連は帝政ロシアの時代から反ユダヤ感情の強い国です。
ナチスドイツには及ばないにしても、反ユダヤ人暴動・虐殺「ポグロム」の歴史があります。
帝政ロシアによる迫害から逃れたユダヤ人たちが、1880年台から20世紀初頭にかけて、移民としてアメリカ合衆国に渡り、そのためアメリカには多くのユダヤ系市民がいます。
先にグロスマンの母親はユダヤ人と記しましたが、ユダヤ教の伝統は「母系」ですので、ワシーリー・グロスマンもまたユダヤ人です。
スターリン時代の末期にソ連でユダヤ人迫害が生じたことに加えて、グロスマンがスターリン圧政の弊害を描いたこともあり、これが書かれた1960年頃には『人生と運命』は弾圧の対象となり、発禁処分とされ、原稿も抹殺されました。
けれども、友人たちに託されていた原稿を基に、1980年代になってようやく刊行が実現しました。

そのほか「ワシーリー・グロスマンは猫好きだった!」という発見もありました。
ワシーリー・グロスマン『人生と運命』と猫の運命」に続きます。

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投稿者 kihachin : 2014年06月19日 08:00

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