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足柄古道

お気楽ハイキング

山仲間のKさん・Oさん・Tさん・私(喜八)の4人で日帰りハイキングにでかけました。
ちょっとだけお姉さんのKさん・ダンディな紳士のOさんのおふたりとは前回の「奥多摩 小澤酒造」でもご一緒させてもらいました。
Tさんは仲間内では屈指の山好きとして知られる行動的な女性です。

JR 御殿場線足柄駅頼光・金時対面の滝虎御前石足柄城址足柄万葉公園夕日の滝地蔵堂〜(バス)〜小田急線新松田駅

のんびり歩きましょうということで、JR 御殿場線松田駅改札口前に集合したのは午前9時過ぎごろとやや遅めでした。松田駅から足柄駅までは約30分。ひなびた無人の駅で降りたのは私たち4人だけでした。駅前には熊に跨がった金太郎の像が目立ちます。

歴史と伝承の路

足柄路は古代より相模・駿河・甲斐を結ぶ重要な交易路でありました。そのため各時代の覇権を争う者たちにとって、足柄峠は戦略的要衝であり続けました。

古事記』にヤマトタケルノミコト東征中の記述があり、『太平記』には南朝後醍醐側の武将新田義貞と北朝の足利尊氏のあいだで戦われた「竹の下の合戦」が描かれています。また戦国時代には北条・武田という超大国間の最前線地帯でした。

同時に足柄は古代より歌に句に口承表現されてきた古典文学の香気の漂う地でもあります。たとえば『万葉集』には足柄峠の周辺や箱根を詠み込んだ歌が19首も収録されているのです。そしてなにより忘れてはならないのが伝奇ヒーローとしての金太郎(坂田金時または公時)の存在でしょう。

JR 御殿場線足柄駅から地蔵堂川沿いの林道を登ってゆくと、以下に挙げるように数々の旧蹟が点在します。

戦ヶ入り(せんがいり)林道」この付近は先にも触れた南北朝時代の古戦場です。

頼光・金時対面の滝」大江山の酒呑童子を征伐した源頼光とその四天王のひとりである坂田金時が初めて対面した地といわれます。現在でも不動明王を祀り地元の人が毎月28日に集うそうです。

金太郎は超人的肉体を持ったスーパーヒーロー。その点では武蔵坊弁慶(鬼若丸)と双璧をなします。足柄山の山姥と雷神の間に生まれたとされ、『今昔物語集』や『御伽草紙』に登場。歌舞伎芝居では怪童丸と呼称されます。

金太郎が熊と相撲を取った足柄山はいまでは箱根の金時山(猪鼻岳)とされていますが、矢倉岳が正しいという説もあるようです。

虎御前石」歌舞伎で有名な曽我兄弟の仇討ちの際、兄の曽我十郎の愛妾虎御前がここで待機したという伝承があります。虎御前は鎌倉初期に相模国大磯宿の遊女であったと伝えられています。

つわものどもが

ゆるやかな坂を登り詰めると足柄城址です。足柄城は室町時代に後北条氏により築かれた山城でした。

現在は城郭の土台と空堀の跡が残されるだけで、建築物の再現は行なわれていません。城の跡地を歩いてみると、その規模の意外に大きいことに気づかされました。強大な武田氏に備えたこの城の重要度が推し量れます。一の丸(本曲輪・廓)にある玉手ヶ池は近年県道工事のため水量が減ってしまいましたが、それ以前は1年を通して水の枯れることがなかったといいます。この水の手の存在も城の価値を高める要素のひとつであったでしょう。

けれども足柄城の最期はあっけないものでした。

天正18年(1590)豊臣秀吉による小田原攻めの際に、戦わずして徳川家康配下の井伊直政隊の軍門に下ったのです。守備兵の大部分は小田原城にすでに移動しており、後には少数の足軽が残されていただけでしたから、戦意の高かった筈もありません。

西側には富士山の雄大な姿。これだけは往時もいまも変わらぬであろう霊山を眺めていると、自分が歴史絵巻の登場人物になったような気分になってきました(さしずめ取り残された足軽のひとりというところでしょうか)。

足柄城址より東側へやや下った足柄万葉公園で昼食。先程より怪しかった雲行きが雨へと変わってきました。東屋を見つけて屋根の下にもぐり込むことができて、どうやら一安心というところ。ここでそれぞれのお弁当を広げます。

矢倉岳・明神ヶ岳・金時山と箱根の山々を眺めながらの、最高に気持ちのよいランチタイムとなりました。万葉公園から見る矢倉岳と金時山はすこぶる容貌魁偉で、金太郎伝説の舞台となったのも頷ける気がします。

夕日の滝

昼食後、雨の中を地蔵堂に向かって下ります。いつものようにとりとめのない雑談を交わすうちに地蔵堂のバス停に辿り着きました。時間はたっぷりあるので近くにある夕日の滝を見てゆくことにします。以前は滝壺に夕日が照り映えたので、その名がつけられたそうですが、現在はまわりの木々が生長したため日が差し込むこともありません。

夕日の滝は氷柱を纏っていました。ここ数日の春めいた陽気であるいは氷は姿を消しているかも知れないという予感もあったので、なんだか儲け物をしたような気分。小雨降る空の下、落差23メートルの滝はむやみに観光地化されることもなく、古代のロマンを感じさせるおおらかな佇まいでした。

今回は滝に始まり滝で終わる1日となり、これで歴史と伝承を尋ね歩くハイキングをうまい具合にすっきりと締めくくることができたのでした。

(喜八 2004‐02‐22)

参考文献


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