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国家と戦争

ある「中国系日本人」の男性からベトナム戦争従軍体験の話を聞いたことがあります。 彼は事情があって中年を過ぎて中国から日本に移住・帰化した人で、戦争があった1979年当時は「中国人」でした。

彼の「ベトナム戦争」に関しても注釈が必要かと思います。一般に日本でベトナム戦争といえばベトナム対アメリカの戦争を指すでしょう。けれども彼が従軍したのは、アメリカが撤退し南北ベトナムが統一されたあとに、中国とベトナムのあいだで争われた戦争でした。「中越戦争」あるいは「中越紛争」ともいわれています。

中国兵としてベトナム国内を行軍中、ベトナム軍から迫撃砲攻撃を受け、隊列の彼の前後にいた複数の兵士が戦死。そのとき死者たちの血と体液で彼の軍服もずぶぬれになったそうです。のんびりした印象の人でしたが、その話をするときばかりは顔をゆがめていました。

中国の人に限らず外国籍の男性と話していると、兵役はお互い共通の前提条件として語られることが多いようです。そんな彼らに「日本には兵役の義務はないのだ」と伝えると一様に驚きます。ある外国人男性から「君はなんて運がよいのだ」と言われたこともあります。

それで自分が世界史の中でも幸運なグループに属していることに気づきました。日本では1945年以降60年近くのあいだ徴兵制は実施されていません。その反面、日本の近隣諸国である韓国・北朝鮮・中国・ベトナムなどではずっと徴兵制が存在し続けていたのです。そして本物の戦争も・・・。

1959年生まれの私はそろそろ兵役を意識しなくてもよい年齢になりつつあります。 十代のころ、もし徴兵されることになったらどうしようと真剣に考えたことがあります。 結論は「脱走」でした。しかし、島国日本で脱走を成功させるのは並大抵のことではありません。結局は嫌々ながら大勢に従うことになるのではないかという諦念もありました。

訳の分からない戦争に駆り出され、20歳くらいであっけなく殺されてゆく。見知らぬ人を殺すことを強制される。どこかの島へ輸送される途中で敵潜水艦の魚雷攻撃を受けて海の藻屑となる。あるいは餓死する・・・。

私ならそんな人生はまっぴら御免だ。そして自分が心から嫌だと思うものを、よそ様の家の息子さんたちに押し付けたくはない。それは卑怯で醜悪な行為だからです。

兵役年齢を過ぎるとにわかにタカ派的言動をとる男性というのは少なくありません。若いときは進歩的ハト派、徴兵年齢を過ぎるとタカ派(笑)。昔から戦争に関しては安全な場所にいる者ほど勇ましいことを言いたがると相場が決まっているのです。

たとえば現在のアメリカ政府の主要メンバーであるブッシュ、チェイニー、ラムズフェルドなどはベトナム戦争当時、兵役年齢であったにもかかわらず、皆うまく逃れてしまったのではないかという強い疑惑をかけられています。そのため彼らは「チキンホーク(chicken-hawk)」と呼ばれています。これは英俗語で「かつて徴兵逃れをしながら現在はタカ派の政治家」という意味です(参考ページ→「他人に戦争を奨励する人々」)。

戦争(人殺し)をビジネスとする人たちは確実に存在します。これは現代に特有の現象ではなく、人間の歴史のかなり早い時期からのことだと私は考えています。また戦争というのはけっして自然に発生するものではなく、それによって巨大な利益を目論む者たちが気の遠くなるような周到な準備を重ねて起こすものでしょう。

どういう形であっても彼ら(チキンホーク死のビジネスマンたち)に荷担しない。いかなるときも彼らを弁護することはしない。彼らの尻馬に乗ることで自分のちっぽけな安逸を守るようなことはしない。自分が年齢的に安全圏に入りつつあるからといって、無責任な好戦論をぶったりしない。これが私のささやかな決意です。

(喜八 2004‐05‐24)

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