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桜公園

花見ができるくらいに桜の木があるから「桜公園」と呼ばれている。正式な名称かどうかは分からない。自宅から歩いて数分のところにあって、夜は静かな場所となる。たまに若いカップルがいるくらいだ。「土の上でジョギングしたいな」と思ったときに利用していた。

ある夜、この公園をゆっくり走っていると3人の少年が後から追い駆けてきた。

「オヤジ狩りか?」腹の底が一瞬ひやりとした。その一方で「くるならこい!」という気持ちもあった。しかし彼らは悪意をもってはいなかった。

髪を赤く染めた長身の少年。サテンのジャンパーを着ている少年。おとなしそうな小柄な少年。3人ともほんの少しだけ不良っぽい身なりをしている。中学生くらいだろうか。

「いっしょに走ってもいいですか?」髪の毛を赤く染めた少年が訊いてきた。彼がリーダー格のようだ。とても礼儀正しい。私も礼儀正しく「どうぞ」と答えた。

ほんの少しだけ走ると、赤い髪の少年以外の2人が「だりぃ〜」とか「疲れた〜」などとぼやき始めた。しかしその様子は子犬がじゃれているようで悪い印象はなかった。彼らは彼らなりに照れていたのかもしれない。

「走るとケンカが強くなりますか?」とサテンジャンパーの少年が質問してくる。この子は細面の尖がった顔つきをしている。俳優のだれかに似ているような気もする。赤い髪の少年が「コラッ、失礼だぞ」と仲間を注意した。

「ボクサ−の練習の半分は走ることみたいだよ」と私は答えた。いくらなんでも格好つけすぎだったと思う。そのときの私は、歩く人にも抜かれるくらいのペースで走っていたのだから・・・。

そのうちに「ケンカが強くなりますか?」の少年が「もうダメだ〜」と離れていった。その声は笑っていた。おとなしい感じの少年も無言で仲間のあとについていった。

最後に残った赤い髪の少年と少しだけ雑談する。彼は中学1年生だという。中1にしては大柄で態度も大人びたところがある。「学校には行っていないのだろうな」という印象があった。けれどもきちんとした気配りができる気持ちのよい子だった。

「どうもありがとうございました」
ものやわらかに挨拶して彼も去っていった。

そういえば先ほどから、女の子をふくめた何人かのグループが、公園の隅でたむろしていたのである。1人で黙々と走る髭面の変なおやじ(私のこと)が気になっていたのかもしれない。仲間の安全を気遣って危険人物かどうかを確認しにきたのだとしたら、感心なことだと思う。

ときどき赤い髪の少年のことを思い出す。大人の世界に蔓延する卑しさに負けることなく、気持ちの優しさを失わずにいてくれればよいのだが、と。


また別の日の話。
同じ公園で女性たちから缶入りのお茶をもらったことがある。桜の花が満開の頃、よく晴れた春の午後だった。家族連れ・高齢者・子供たちでにぎわう公園内を私はジョギングしていた。

「お兄さん、これ飲みきれないからあげる」70歳台かと思われる2人連れの女性が差し入れしてくれた。私はすでに「お兄さん」とはいえない年齢だろう。しかし好意はありがたく頂いた。1時間ゆっくり走った後だったので、冷たいお茶はとても美味しかった。

(喜八 2003‐06‐11)

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